わたしの本のこと

アリスン・マギーの絵本

きみがいま

51BviH8JUEL-1._SY465_BO1,204,203,200_.jpg

アリスン・マギー 文  ピーター・レイノルズ 絵  主婦の友社

 

  きみが いま むちゅうなのは

  きいろい カップ

  おはようの うた

  きらきら まぶしい あさの ひかり

  にじいろに かがやく むしの はね

  そして

  おおきな ダンボールばこ

 

原題は "Little Boy"。

小さな男の子が夢中になって遊び、見つめ、追いかける物事がつぎつぎに挙げられていきます。

みずたまり。さらさらこぼれる砂。サッカーボール。絆創膏。濡れた犬のにおい…。

ほんとほんと、と笑って頷き、あるいは、そういえばそんなこともあったっけと遠い日を鮮やかに思い出したあたりに…

 

  さきのことなんて しんぱいしない

  あしたのために いそぐことも しない

  だから

  おおきな ダンボールばこに むちゅうに なれる

 

…とあって、どきん、とします。

くりかえし語られる「おおきなダンボールばこ」は、もちろん、そのままで良いのですが、もっと大きなものの比喩でもあるのでしょうね。

幼い子への愛おしさもさりながら、ふっと時が止まり、じぶんの現在をみつめてしまいます。

 

アリスンの言葉をのびのびとひろげるピーター・レイノルズの絵がほほえましい。

ピーターの絵って、彼が文章も書いているときと、ほかの人の文章のときでは感触がちがうのよね。(^o^)

 

 

そしてこの本も、2019年春にコープロではなく、国内印刷として復刊されました。

まちがい探しのようですが、右が原書、中央が2010年コープロ版、左が今回の新版です。

帯の言葉がすてき。

 

IMG_4183.jpg

 

写真では微妙な色や紙質が伝わりませんが、見返しの黄色と袖の若草緑のバランスも、ひとりのデザイナーが最初から最後まで気を配ればこれだけ違うということがよくわかります。

こういう なんてことなさそうな配慮が、本の「香り」として読む人の心をそっと包むのです。

 

IMG_4181.jpg

 

 

編集は 浜本律子さん。復刊担当編集は 白田久美さん。

装丁は どちらも、水崎真奈美さん。 

 

復刊の舞台裏は、こちらからどうぞ。

http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=74

 

たくさんのドア

51TkQr+f14L._SY476_BO1,204,203,200_.jpg

アリスン・マギー 文  ユ・テウン 絵  主婦の友社

 

  きょうも あしたも あなたは

  たくさんの ドアを あけていく

  そのむこうに

  たくさんの あたらしいことが まっている

 

  あなたは どんなひとに なり

  いったい どこへ いくのだろう

  どうやって こたえを みつけて いくのだろう

 

最初に翻訳をしたのは2010年の秋。

アリスン・マギーの詩に、ユ・テウンが控えめながら味わいのある絵をあわせています。

 

  やわらかな のぞみに つばさを つけて

  あなたは はばたきはじめる

  あなたは まだ しらない

  じぶんが どれほど つよいかを

 

子どもたちは、今日も明日も新しい世界の扉をあけるように生きていきます。

日々のくらしもさりながら、卒業や入学などの大きな節目は、ドアのむこうがわの景色がみえないので不安でもあるでしょう。

そのきもちに寄り添いながら、アリスンの言葉のゆりかごは波のように揺れ、内なる自信と期待を高めていきます。

 

  あなたは まだ しらない

  じぶんが どれほど いさましいかを

 

そう語られれば、子どもたちは、みずからの心をのぞきこみ、じぶんにもまだ未知の勇ましさがあるのだろうかと静かに問うのではないかしら。

これは旅立つ子どもたちへの言祝ぎです。

もっとも、こたえは、みつかるとはかぎりません。

それでも…

 

  あなたは おおぞらに りょうてを さしのべる だいち

  うたわれるときを まっている うた

 

  はるばるとした おおきなものに

  あなたは まもられている

  なにがあろうと

 

じつはさいごの1文は You are loved more than you know. です。

けれど、わたしは「愛されている」とは訳しませんでした。

このloveには主語がありません。

愛しているのは、だれでしょう。

親、祖父母、先生達、まわりの大人達、ともだち。

西洋の文化ではやはり 神の愛をすぐに思いうかべます。

けれどアリスンはキリスト教的な神を念頭においていたわけではなく、もっと大きな、矛盾も不条理もはらむ宇宙的なものだと教えてくれました。

そこで、こんな訳文になったという次第です。

 

それにしても。

今日も明日も、あたらしいドアをあけていくのは、子どもたちや若い人たちだけではないようですね。

年をとり、世の中のたいていのことには慣れっこになってしまった年代にとっても、生きていくことはやはり新しいドアを日々あけていくことなのだと、最近、90歳の老父の最期を看取ったわたしは思っています。

 

 

さて。

この美しい、けれど地味な一冊が、それなりに評価されたものの、じきに書店から消えてしまったとき、わたしは大して驚きませんでした。

この種の落胆は数えきれないほど味わってきて、鉄壁の免疫ができていますから。

 

むしろ、驚きのあまり椅子から落ちそうになったのは、毎年毎年、卒業入学シーズンになると全国の読者から「あの本が手に入らないのは困る」という問い合わせが寄せられ、それによって主婦の友社が復刊を決断したときいたときでした。

その顛末は、こちらに書いてありますので、お時間がゆるせばお読みください。

  http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=2

  http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=15

 

右が原書。中央が2010年版。

そして左が2018年の復刊版です。

IMG_3725.jpg

 

復刊版は、そのことが明白にわかるように、表紙のデザインもあえて変えてあります。

原書と2010年版は タイトルが主役でしたが、復刊版は絵を主役に据えました。

 

そして復刊版は、コープロ印刷ではなく、国内印刷です。

コープロ特有の紙と印刷の制約がなくなると、どんないいことがあるかというと…

 

2010年のコープロ版は、扉にカラーインクを使うことができなかったので、灰色のみ。

さびしいですよね。喪中欠礼葉書みたい…。

復刊版では葉っぱを緑色にすることができたので、流れが自然になりました。

見返し紙の色もすこしちがいます。

IMG_3726.jpg

 

カバーをはがしてみてください。

本体の紙も、ほら、こんなにちがうのですよ。

コープロ版は青味をおびた白のつるつる。一般的に欧米の紙は青白く、発色はよいのですが、やや冷たく感じます。

復刊版は、ざっくりとした手触り感のある温かい色の紙です。

IMG_3728.jpg

 

紙の本は、手で触れながら読むものだから触感をたいせつにしたいというのが、デザイナーの水崎真奈美さんの考えだからです。

 

「たくさんのドア」を愛して、もういちど命をふきこんでくださったみなさん。

ほんとうにありがとうございます。

小さなともしびとして、この先も手から手へと、わたされていくことを願っています。 

 

 

編集は 浜本律子さん。復刊版担当は 山口香織さん。

装丁は どちらも水崎真奈美さん。

荻原規子の挿絵担当

これは王国のかぎ

51vXPUGPxsL._SX353_BO1,204,203,200_.jpg

荻原規子 作  理論社

 

忘れられない瞬間というのはあるもので、出版されたばかりの『空色勾玉』を書店でみつけて手をのばしたときのことを、切り取られた画像のようによく憶えています。

その瞬間を起点として子どもの本の仕事をするようになったので、ご本人は与り知らぬこととはいえ、荻原規子はわたしにとって別格の作家です。

 

だから、その後も「勾玉シリーズ」を書いていた荻原さんが、ふと横道にそれて(?) 『これは王国のかぎ』を書き、挿絵をわたしにと指名してくれたときには舞い上がりました。

『ふしぎをのせたアリエル号』の挿絵を気に入ってくれたというんですもん。

はりきっちゃいましたよー。

 

挿絵をみて、読みたい本をきめる子どもは多いものです。わたしも、そうでした。

挿絵って、ほんと大切。そして難しい。

(なのに報酬が少ない…。挿絵画家の質と待遇改善委員会を発足させたいくらいだ)

 

荻原規子さんとは、その後、何度もお目にかかっているけれど、いつだって初恋の人に同窓会であうみたいにドギマギして落ち着きません。

 

編集は芳本律子さん。

装丁は太田大八さん。

太田大八さんの装丁なんて畏れ多いですよね。でも表紙の背景色はこの色ではなく、深い赤にしてほしかったの…涙。

 

グリフィンとお茶を

51lPhTgc4gL._SX338_BO1,204,203,200_.jpg

荻原規子 著  徳間書店

 

…とまあ、そんなわけで特別なヒトである荻原さんから、徳間書店の文芸PR誌「本とも」に連載する原稿に絵を描いてといわれたときは、一も二も無く「ハイ」と頷きました。

連載当時のタイトルは「アニマ・アニムス・アニマル」。

荻原さんが毎回、動物のでてくる物語についての随想を書くというものでした。

 

私は送られてきた原稿をよんで、ひぇ、こんどは虎かよ、竜かよ、カエルのケロちゃんかよと慌てて資料をさがし、読書家の荻原さんがとりあげる本すべてを意地で読破し、ちゃっちゃか絵をかくこと20ヶ月。

荻原さんとの仮想対話がたのしい仕事でした。

〆切はいつもスリリングでしたが…。

 

その連載をまとめた一冊です。

荻原規子ファンは必読ですよ。

 

編集は村山晶子さんと、上村令さん。

装丁は百足屋ユウコさん。

表紙(カバーをめくった本の本体)の青が理想としていたウェッジウッドブルーよりだいぶ濃くなってしまったのが残念ですが、お洒落な大人カワイイ本になりました。

1 2 3 4 5