わたしの本のこと

美術の絵本

ゴッホの星空 フィンセントはねむれない

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バーブ・ローゼンストック 文  メアリー・グランプレ 絵  ほるぷ出版

 

ゴッホの少年時代からの歩みと、晩年の名画「星月夜」に焦点をあてた伝記絵本です。

キーワードは「フィンセントは ねむれません…」。

 

あまりにも面白く美しい物事に心がおどると、ねむれなくなります。

悲しみや焦り、怒りに心がさわいでも、ねむれなくなります。

なにかに激しく熱中しても、やはりねむれなくなるでしょう。

 

フィンセント・ファン・ゴッホの一生は、その連続でした。

絵本の作家バーブ・ローゼンストックによれば、ゴッホは夜型人間だったそうです。

明るい色彩のひまわりや南仏の景色の絵を思いうかべると意外な気がしますが、2008年には「星月夜」をお宝として所蔵するMOMAニューヨーク近代美術館で「ゴッホと夜の色」と題した展覧会も開かれています。

 

ゴッホが夜に目をさましていて、夜の時間を絵で表現したという具体的な意味もさりながら、バーブさんの献辞には、

 

  闇を知り、なおも 光をもとめる人たちへ

 

とありますから、「夜」とは心の闇やフィンセントの生き辛さも含んでいるのでしょう。

豊かな才能をもちながらも、まわりとうまく関われない子どもや若者は今も多くいます。

親や教師にも、その扉をあける方法がわからないことは、しばしば。

 

小学中学年くらいからたのしめるシンプルな絵本ですが、奥行きは深いと思います。

著者や訳者のあとがきも、読んでくださいね。

 

メイキングとちゅうの私の呟きは、こちらからどうぞ。 

 その1 http://chihiro-nn.jugem.jp/?day=20180413

 その2 http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=49

 その3 http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=56

 

 

編集は、絵描きとしての話もできる関谷由子さん。

装丁は、青の魔術師、森枝雄司さん。

にぎやかなえのぐばこ カンディンスキーのうたう色たち

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バーブ・ローゼンストック 文  メアリー・グランプレ 絵  ほるぷ出版

 

抽象絵画をみるのは好きですか?

 

もしお好きなら、きっと楽しめるはず。

カンディンスキーが子どもの頃に色のささやく音をきいて、やがてその音を重ね、響かせあって重厚な交響曲をかなでる絵を描くようになった過程に共感できるでしょうから。

 

でも、もし抽象絵画ってよくわからないから苦手という方であっても、きっと楽しめるはず。

カンディンスキーは抽象絵画の父とよばれていますが、なぜこんな絵を描きはじめたのかが、とてもわかりやすく説き明かされています。

かたちの無いものを絵にしたかったんですって。

なにが描いてあるかわからなくて当然ですよね。

ぼんやりと心をひらいて絵の前にたたずみ、なにかを感じたらそれでOK。

なにも感じなかったら、波長が合わなかったということ。好きな音楽をさがすのと一緒です。

ね、気が楽になったでしょう。

 

そしてもし、べつに絵に興味はないという方であっても、やはりオススメです。

名家の跡取り息子で、頭脳明晰 (しかもイケメン)。

非の打ちどころのないお坊ちゃまだったカンディンスキーは親の期待どおり、法律家として出世街道を進んでいたのに、すべてを投げうって一から絵の勉強に身を投じます。

とても遅いスタートでした。

なんかしっくりこない…という違和感を原動力に、人生の舵を大きく切った遅咲き青年の物語でもあります。

 

絵画とおなじく、絵本も、さまざまな楽しみ方を歓迎いたします。

そうそう、これから、おなじ作者と画家のコンビによる、ゴッホ少年の絵本を翻訳します。

芸術の秋あたりに出版できるといいな。

いろのダンス

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アン・ジョナス 作絵  福武書店

 

ダンスの発表会です。

赤、黄色、青、そして白黒のレオタード姿の四人の子どもたちが、それそれの色の薄布をもって舞台に登場します。

 

  それでは ダンスを はじめます

  あか きいろ あお

  だいだいいろは あかと きいろを まぜた いろ

  あおは おやすみ

 

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  みどりは きいろと あおを まぜた いろ

  むらさきは あかと あおを まぜた いろ

 

こんなぐあいに、三原色による混色が わかりやすく描かれていきます。

 

  あかに あかを まぜても あか

 

というページもあり、単色濃淡のベールもすてき。

反対に、ぜんぶの色をまぜると…

 

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水彩絵の具のパレットや水入れが暗く濁った経験は、だれにもありますよね。そうか、三原色をまぜたからなんだねと納得できることでしょう。

勘の良い子は、茶色って、赤と青と黄色で作れるんだ!?と 気づくかも。

白や灰色、黒をまぜたときの変化も、ダンサーたちのベールで表されています。

 

はい。

これは徹頭徹尾、実用書、あるいは技法書であります。子どものお絵かきのための。

小学校の学級文庫に収められ、水彩のお絵かきの時間になると「むらさきって、どうやって作るんだっけ?」「いろのダンス、いろのダンス!」と、みんなが見にいく話をききました。

なにより、とてもとても美しい。

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 子どもたちに図工や美術を教えるのは、じょうずな絵をかかせることが目的ではありません。

きれいだなあ…と  心がうごく一瞬があれば、目的は半分以上達成されたというべきでしょう。

それにくわえて、じぶんでもこういう美しいものをうみだしたいきもちが芽ばえたなら、ほぼ目的完遂。

そのとき紙の上の結果に満足しなかったとしても、まったくかまいません。その子は一生、美しいものへの憧れを胸にいだく人になるでしょうから。

教育って、未来への種を蒔くことですものね。

 

とまあ、それくらい大好きな絵本ですが、絶版です。しくしくしく…。 

石の巨人 ミケランジェロのダビデ像

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ジェーン・サトクリフ 文  ジョン・シェリー 絵  小峰書店

 

ミケランジェロのダビデ像は、まぎれもなく、ルネッサンス芸術の大傑作のひとつです。

でも、はじめから人類の至宝だったわけではありません。

ばかでかいわりに質の悪い大理石の塊として、フィレンツェの街中にころがされたまま、40年近く邪魔物扱いされていたそうです。

都市国家フィレンツェの議員たちがダビデ像を作らせるために購入した石らしいのですが、予算をけちったのかしらね…。

何人もの彫刻家が、ちょこっと彫っては放りだし、あのレオナルド・ダ・ビンチでさえ、石をちらりとみるなり「おことわりだな」と言ったとか。

 

その大理石に挑んだのが、当時26歳のミケランジェロ。

議員たちは、ほっとしたそうですよ。少なくとも巨大な石の処分ができそうだと。

ミケランジェロは約3年の歳月をかけて、今にも動きだしそうな若きダビデを彫りだし、みんなを感動させました。

500年以上も前のお話です。

 

中世フィレンツェの風景や人々の服装、街のざわめきなどが生き生きと描かれた絵本です。

重機がない時代に彫刻家がどうやって巨大な石像を彫り、運搬し、設置したのかも、コマ割りの絵で詳しく見せてくれます。

この絵本を読んだ後にダビデ像をみたら、2倍も3倍も楽しめるはず。

 

画家のシェリーさんはイギリスの方ですが、日本で21年間暮らしていたので日本語も堪能です。

「石の巨人」の絵をもっとごらんになりたい方は、シェリーさんのHPをどうぞ。

https://www.jshelley.com/projects/4232660#1

日本語のブログもあるんですよ!

http://shelleyjapan.blogspot.jp

 

 

 

ペペットのえかきさん

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リンダ・ラヴィン・ロディング 文  クレア・フレッチャー 絵  絵本塾出版

 

ジョゼットは、芸術の都パリに住んでいる女の子。

ジョゼットの家には、家族の肖像画がかけてあります。

おかあさんの絵、おばあちゃんの絵、おじいちゃんの絵、おねえちゃんたちの絵、犬のフリゼットの絵。

おや、たいへん。ジョゼットのうさぎのぬいぐるみ、ペペットの絵がありません!

ジョゼットにとってペペットは、かたときも離れられないほど大切な仲良しなのに。

パリで一番じょうずな絵描きさんにペペットの絵をかいてもらわなくっちゃ。

 

最初にであった縞シャツの絵描きは、どうやらピカソさん。

自信たっぷりに、耳が3本、鼻がふたつあるペペットを描いてくれました。うーん、なんか違う…。

 

つぎに出会った自転車のハンドルみたいなヒゲの絵描きは、どうやらダリさん。

ぐんにゃり溶けたペペットの絵をかいてくれました。うーん、これも違う…。

 

つぎは、どうやらシャガールさん。

それから、どうやらマティスさん。

でも、みんな、なんか違うのです…。

 

それでもジョゼットは、最高にかわいいペペットの絵を飾ることができました。

さて、だれが描いてくれたと思いますか?

 

たしかにピカソもダリもシャガールもマティスも、1920年代のパリでくらしていたようです。

彼らがモンマルトルの広場にイーゼルをたてて、ぬいぐるみのうさぎの絵を描いたかどうかは不明ですが、ジョゼットがみつけた答えには、絵を描くことの本質がふくまれていると、わたしは思います。

 

 

おえかきウォッチング 子どもの絵を10倍たのしむ方法

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理論社

 

絵本ではありません。物語でもありません。

絵を描く子どもたちの近くにいる方のための「実用書」のつもりです。

かつて、明星大学で美術教育の講師をしていた5年間に考えたことや、学生たちとともに作り上げた愉快なワークショップをまとめました。

幼い子どもが描くぐちゃぐちゃの絵は、あなどれませんぞ。へえ〜と感心するようなロジック、そして野の花のような成長の道筋があるのです。

それを知ると、子どもの絵を見ることがたのしくなります。

バードウォッチングをするときのポケット図鑑のように使っていただければうれしいな。

子どもたちの絵を大人がたのしむことで、ゆたかな時間がうまれ、なによりの創造性教育になると信じます。

絵を描くことに苦手意識をもつ方や、子どもに絵をどう教えたらよいのかわからない方にこそ、読んでいただきたいと願っています。

 

目次

 1   はじめての絵は、いつ?

 2   げんきな なぐりがき

 3 マルのおはなし

 4 うごきだすマル

 5   なんでもかけるよ

   6   地に足がつく

 7 へんてこりんな絵!?

   8 またおんなじ絵〜!?

   9 男の子の絵・女の子の絵

  10 色がすき? 線がすき?

  11 めざめよ触覚!

  12 現代絵画は子どもの絵?

  13 じょうずな絵って、なんだろう?

 

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フランソワーズの絵本

ありがとうのえほん

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フランソワーズ 作絵  偕成社

 

 コケコッコー !  おはよう おんどり ありがとう

 きょうも ぱっちり めが さめた

 あさごはんに ゆでたまご

 かわいい めんどり ありがとう

 

こんなふうに、つぎつぎと いろんな「ありがとう」がつづられます。

ふわふわと あまい砂糖菓子のような絵とともに。

にわの さくらんぼにも、わたしや だいじなものを まもってくれる おうちにも、ありがとう。

そして さいごに

 

 こんなに すてきなものを いっぱい くれた かみさま

 ほんとに ありがとう

 

ゆっくりと声にだして読んでいると、しだいに心の固い殻がほどけてきます。

あたりまえのことの尊さを、しっかり味わえる人でいようと、にっこりしてしまうような絵本です。

 

この絵本を作ったフランソワーズには、ちゃんと苗字もあります。正しくはフランソワーズ・セニョーボ。1897年にフランスで生まれて、のちにアメリカへ移住した画家です。

「まりーちゃんとひつじ」は、とても有名ですね。幼いわたしの愛読書でもありました。

クッキーに飾るアイシングを、むかしの本では「砂糖ごろも」と呼んでいましたが、フランソワーズの絵は、まさにその砂糖ごろものよう。

アイシングではなく、とろりとした、おさとうのころも。やわらかくて、あまくて、かわいらしい。

天衣無縫とは、この人の絵のことと思えるのびやかな愛らしさ。

 

けれども、以前、アメリカでフランソワーズの原画を手にとって眺めたとき、おおらかな絵の具の下に、うっすらと、とても細くてとても神経質な鉛筆の線があることに気づきました。

ま、そういうものかもね、と、にやりとした次第です。

 

 

わたしのすきなもの

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フランソワーズ 作絵  偕成社

 

  わたし いきものが すき

  けの ふわふわした いきものも

  はねの はえた いきものも

  けも はねも ない いきものも

  みんな だいすき

 

ほっぺの まあるい おんなのこが、うさぎや小鳥、てんとうむし、そしてイモリ?にかこまれて、にっこり。ああ、なんてかわいらしい…。

 

いちばん すきなのは、おうちのねこのミネットだそうですが、おんなのこの思いは はるか遠くへ とんでいきます。

おおむかし、世界中が洪水になったとき、はこぶねをつくって どうぶつたちをすくってくれたノア ありがとう、って。

 

おんなのこは ひとも すき。あかちゃんも おとしよりも おおきな ひとも ちいさな ひとも。

おうちが すき。 おいしいものが すき。 ピクニックが すき。 なつやすみも すき。

すきなものを たくさん たくさん あげていって、さいごの ページは…

 

 ほらね わたし すきなものが こんなに いっぱい あるの

 あなたの すきなものは なあに?

 

「ありがとうの えほん」と似た趣向ですが、こちらのほうがもっと積極的かな。

「ありがとうの えほん」の出版は1947年で、フランソワーズが50歳のとき。

「わたしの すきなもの」の出版は1960年。フランソワーズが63歳、亡くなる1年前です。

絵はさらにあかるく、愛らしくなっています。

こんな愛らしい絵をかいた晩年とは、いったい どのようなものだったのでしょうね。

 

おおきくなったら なにになる?

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フランソワーズ 作絵  偕成社

 

  ねえ ねえ みんな おしえて おしえて

  おおきくなったら なにに なりたい? 

  なにを する?

 

ページをめくると、そこは 「まりーちゃんと ひつじ」の風景。

 

  いなかに すんで ちいさなロバと アヒルと うさぎと 

  それから かわいい こひつじを かってみたい?

 

いかにも絵本っぽい夢物語と思われるでしょうが、当時ニューヨークで仕事をしていたフランソワーズは、休暇には故郷のフランスで田舎暮らしをたのしんでいたそうです。だからこれは彼女の現実。

むむむ、うらやましい。ちょっと見る目がかわってしまいますが(^_^;)、まあ、それはさておき、ふなのり、たんけんか、ペットやさん、ぼうしやさん…と いろいろな将来の夢が提案されます。ホテルのペットがかりも、おもしろそうですね。

 

この冒頭の原文は

  Tommy and Bobby, Jinny and Molly, Tony and Franny --

  all of you--tell me what do you want to be?

 

これをそのまま「トミー、ボビー、ジニー、モリー、トニー、フラニー」としないのも、こどもの絵本の翻訳家の仕事だとおもっています。

 

それにしても、ああ なんてかわいい……(ためいき)。

 

 

たのしいABC

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フランソワーズ 作絵  徳間書店

 

  Aのつくもの apple

      appleは りんご  

  ぼくは りんごうり   

  みなさん かってね おいしいよ 

 

というぐあいに、AからZまで。かわいい絵とともにアルファベットが紹介されます。

わたしのお気に入りは X。

 

  Xのつくもの  X

      Xで はじまる ことばは あんまり ない

  だから Xのクッキーを つくったよ

  いっしょに たべよう

 

1939年初版。フランス生まれのフランソワーズがアメリカに渡って仕事を始めてまもない頃の本です。

こういう古い絵本の翻訳には、独特のむずかしさがあります。

まず、原書が手に入らない! 学校や公共図書館のボロボロになった廃棄本を、まるで唐の国から渡来した仏典のように大切にスタッフ一同で共有することもしばしば。

とうぜんのことながら、原画が手に入らない! 運良くコレクターや美術館で保管されている原画の一部を見ることができたとしても、そこに至るまでに日に焼けて退色していたりして本来の色がわからないなんて、しょっちゅう。日本で出版されている美しい本は、編集者や装丁家、そして印刷所のみなさんの研究と努力の賜物です。

表現がいまの時代に合わない。 たまに差別的な表現もあります。

 

それでも、もういちど世に出したいと思わせる魅力にあふれる本たち。

古い本のリペア仕事、だいすきです。

クリスチャン・ロビンソンの絵本

ことりのおそうしき

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マーガレット・ワイズ・ブラウン 文  クリスチャン・ロビンソン 絵  あすなろ書房

 

原題は "The Dead Bird"。

アメリカ黄金期の絵本を数多く手がけたマーガレット・ワイズ・ブラウンが1938年に書いた文章に、近ごろ大人気の若い画家クリスチャン・ロビンソンの絵が新たな命を吹きこみました。

 

マーガレット・ワイズ・ブラウンの文章は詩です。

読者の五感に、かるくぽんぽんとさわっていく魔法の杖のような言葉だと、わたしは感じます。

そのとたん、目にうつるもの、かすかな音、におい、味、肌触りなどがまざまざとよみがえり、世界に初々しく対していた頃のきもちに近づくのです。

 

わたしも、何度も、小鳥の亡きがらを手のひらにのせた子どもでした。

手のひらからしたたり落ちていく命をみつめ、かなしみ、お墓をつくると高揚し、安堵し、そしていつしか忘れていきました。

すこやかな子どもたちを静かにみつめる作者と画家の目が、とてもすきです。

 

かつてレミー・シャーリップの絵による本が、与田準一さんの翻訳で岩波書店から出版されていましたが、現在は入手困難なようです。

クリスチャン・ロビンソン版のこの本も、永遠に変わらないであろう子ども心を掬いとった作品として読みつがれていってほしいものです。

 

 

がっこうだってどきどきしてる

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アダム・レックス 文   クリスチャン・ロビンソン 絵  WAVE出版

 

原題は "School's First Day of School"。

「学校にとっての、学校のさいしょの日」という意味。ややこしいですね。

(タイトルについては悩みました…)

 

物語は建設現場の風景からはじまります。

新しく建った建物には「がっこう」と書いてありますが、なにしろこの建物は生まれたてほやほやなので、「がっこう」が何のための建物かがわかりません。

やがて用務員がやってきて、「がっこう」の中をぴかぴかに掃除してくれます。

「がっこう」は用務員がすきになり、「ぼくは、きみの家なの?」と期待をこめてたずねるのですが、あっさり否定されます。

それどころか、じきに子どもたちが大勢やってくるときいて、「がっこう」は不安になるのです。

 

そして、学校のさいしょの日。

「がっこう」は、どきどきしながら、子どもたちをうけいれます。

なんとまあ、いろんな子どもたちがいるのでしょう。

「がっこう いやだあ!」と泣く子もいれば、大笑いも、けんかも、仲直りも。

 

それをずっとみつめていた「がっこう」は、一日のさいごにつぶやくのです。

 「あのこたち、あしたも また きてくれると いいなあ」

 

すると用務員はこたえます。

「きっと くるよ。 あしたも、あさっても。

 そして もっと がっこうが すきになるさ」

 

すべての学校が、子どもたちをみつめ、やさしく包み込む素敵な場所でありますように。

 

おじさんとカエルくん

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リンダ・アシュマン 文  クリスチャン・ロビンソン 絵  あすなろ書房

 

雨がふっています。

あっちのマンションの窓で、おじさんが吐き捨てるようにつぶやきます。「雨か!」。

こっちのマンションの窓で、男の子が歓声をあげます。「雨だ!」。

 

それぞれ、みじたくをして、おでかけ。

おじさんは、ぶつぶつと雨をのろい、通りかかる人をしかめっつらで、にらみつけながら。

男の子は、カエルのレインコートをきて、カエルのようにぴょんぴょんとびはね、笑顔をふりまきながら。

 

そしてふたりは、おなじカフェで、となりのテーブルにすわります。

さてさて、なにが起きたのでしょう?

あのしかめっつらおじさんが、帰り道ではケロケロわらい、水たまりをぱしゃぱしゃふんでいきますよ。

 

ところで。

ふたりが行き会わせたカフェの名前は「あめでもはれでもカフェ」。原文は"Rain or Shine"カフェだから、まあ、文字どおりの翻訳です。

でも、英語の rain or shine には「晴雨にかかわらず、なにがあっても」という意味があります。

したがって、このカフェは、どんなお天気でもご来店くださいという意味にくわえて、どんな気分のときにもどうぞという意味があるのでしょうし、さらに本全体のメッセージとして考えると、人の一生のどんな局面であってもという含みがあるように思います。

いい日ばかりではない人生を、あなたは笑顔ですごしますか、それとも文句ばかりのしかめっつらですごしますかと、ささやいているように思われます。

 

そんな深読みも可能で、でも、わざとらしくない店名はないものかと、うんうん、唸って考えましたが…

「晴雨カフェ」「降っても照ってもカフェ」「全天候型カフェ」

「なにがあってもカフェ」「どんなときにもどうぞカフェ」「人生カフェ」

 

…あきらめました。しくしく…(;o;)

絵本の翻訳は、ひらがなが殆どですし、絵にはめこむ場合は、そのスペースにふさわしい長さでなくてはなりません。もちろん、文化的なちがいもあります。

たまには、原文よりいいかもねとムヒムヒほくそ笑むときもありますが、これは、ざんねんなケースです。

 

でもまあ、そんな翻訳家のちっぽけな敗北感はなんのその、色がきれいでポップで、絵をよむ楽しさに満ちた絵本です。

1986年生まれの画家クリスチャン・ロビンソンは、この絵本の頃から急に有名になり、いまやひっぱりだこ。

小さなころは、きっとカエルくんだったんだろうなと思える笑顔の青年です。写真だけでも、ごらんください。

http://theartoffun.com/about/

 

デビッド・マッキーの絵本

せかいでいちばんつよい国

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デビッド・マッキー作 光村教育図書 

 

原書が出版されたのは2004年。

その後、作者のデビッドは来日したときに教えてくれました。

ブッシュ政権の中東政策に抗議をするために、わずか10日かそこらの猛スピードでこの本を作ったのだと。

けれどその下地には、第二次世界大戦の勝者としてイタリアに駐留し、すっかりイタリア文化に魅せられて帰国した兵士のエピソードがあるとも。

普遍的な問いかけを含む1冊です。

メルリック まほうをなくしたまほうつかい

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デビッド・マッキー 作絵  光村教育図書

 

心やさしい、まほうつかいのメルリックは、人間たちのためにせっせと魔法をつかいます。

王さまのプールの温度管理や、お城のペンキぬりから、一般家庭の料理、洗濯、裁縫、畑仕事、靴の修繕まで。

だから忙しいのはメルリックだけ。ほかの人は、のんべんだらりと暮らしていました。

ところがあるとき、メルリックの魔法が底をついてしまったのです。

あらまあ、魔法って有限だったんですね。

魔法に頼りきっていた人々の大混乱がユーモラスに描かれます。

 

作者のデビッド・マッキーは「ぞうのエルマー」で有名ですが、キャラクターグッズの画家ではありません。

エッジのきいた風刺と、社会への問いかけが彼の本領です。

 

この物語が最初に生まれたのは1970年でした。

日本でも『まほうをわすれたまほうつかい』(安西徹雄 訳・アリス館)として紹介されましたが既に絶版。本国イギリスの元の本も絶版です。

 

するとマッキーさんは、すべての絵を新たに描きなおし、2012年に新刊絵本として出版したのです。当時77歳。

なんとしてもこの物語を蘇らせ、次代に手渡そうとした熱い思いが感じられます。

「魔法の力」とは、いったい何でしょう。

震災直後の私の脳内では、ただちに電力と原子力に変換されました。

けれどほかにも、いろいろなものに置き換えることができそうです。復興予算や途上国への支援、石油、財力、ITと考えることも可能かもしれません。

 

さて、わたしたちは、生活を楽にしてくれる「魔法の力」と、どう向きあっていけば幸せになれるのでしょうか。

さんびきめのかいじゅう

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デビッド・マッキー 作絵  光村教育図書

 

石ころだらけの島に、赤いかいじゅうと青いかいじゅうがすんでいました。

石ころをかたづければ快適なくらしができるのだけど、2匹は、なまけもの。

あるひ、ボートが流れつきました。乗っていたのは、きいろいかいじゅう。

すんでいた国が地震でめちゃめちゃになり、命からがら逃げてきたという きいろいかいじゅうは へんてこな言葉で 懇願します。

「おねがい、とち、ちょっぴり ください。わたし、なんでも しますです」

 

よそもの、おことわり!

赤いかいじゅうと青いかいじゅうは、きいろいかいじゅうを追いだそうとしましたが、いいことを考えつきました。

そうだ、こいつに 石ころをかたづけさせちゃおう!

 

きいろいかいじゅうは、せっせと働きます。

そしてみごとに してやられた 赤いかいじゅうと青いかいじゅう。

さあて、このあと三びきは いっしょに仲良くくらせるのでしょうか…?

 

お察しのとおり、これは移民や難民の問題をテーマにした絵本です。

「ぞうのエルマー」で有名になったイギリス人作家デビッド・マッキーは、4カ国語をあやつり、異なる文化背景をもつ女性と家庭をもって、つねに社会的な視点から絵本を作りつづけた作家です。

この絵本が出版されたばかりの2005年の夏、わたしは来日したマッキーさんと夕食をともにしました。

日本酒をのみ、お箸でじょうずにサラダをたべるマッキーさんがいいました。

「おいしいサラダを作るコツはね、歯ざわりのちがうものをまぜることだよ。

いろんなのがまじっていてこそ、おいしいんだ」と。

 

よそ者を警戒し、恐れるきもちはだれにでもありますが、とりわけ近年、世界的にひろがる排他主義を感じます。

でもこの本、出版から12年目に絶版がきまってしまいました。

ざんねんだなあ…。

 

 

 

バレリー・ゴルバチョフの絵本

ゆうびんやさん おねがいね

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サンドラ・ホーニング 作  バレリー・ゴルバチョフ 絵

 

コブタくんが、遠い町にすむおばあちゃんのお誕生日に送りたいのは、お花でも絵でも手紙でもありません。

特大サイズの「ぎゅっ」を送りたいのです。

おばあちゃんの住所をかいた封筒をもって、郵便局でお願いをしてみると、特別扱いで配達してくれることになりました。

 

まずはコブタくんが、窓口のイヌさんを、ぎゅっ。

窓口のイヌさんは、郵便を仕分ける係のヤギさんを、ぎゅっ。

ヤギさんは、郵便を運ぶトラック運転手のウサギくんを、ぎゅっ。

…というぐあいに、コブタくんの「ぎゅっ」が運ばれていきます。

 

べたべたしたつきあいが苦手なヤマアラシさんも、仕事だからしかたないと観念して、トゲをねかせて、ぎゅっとしてもらうのです。

みんな、おとなですもんね。

しょうがないなあ、と笑いながらも、なにやら和気藹々としてきます。

 

こうして「ぎゅっ」は、おばあちゃんのところに無事に届きました。

すると大喜びのおばあちゃんは、すぐにお返事をだしたのです。

ん? どんなお返事かしらって?

ほっぺに「ちゅっ!」

 

読んでいるほうも、自然と口もとがゆるんできます。^w^

すてきなあまやどり

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バレリー・ゴルバチョフ 作絵  徳間書店

 

ヤギくんのところへ、ブタくんが、ずぶぬれになってやってきます。

さっきのにわか雨に、ふられたようです。

「木の下で、あまやどりをすればよかったのに」

ヤギくんは、乾いたタオルを貸してやりながら言いました。

 

ところが、ブタくんはこたえます。

「したよ」

「それなら なんで ぬれたのさ?」

「ちっちゃな ネズミが1匹、あまやどり させてって、ぼくの木の下に はいってきたの」

「そりゃ おかしいよ。ちっちゃなネズミとなら あまやどり できただろう」

「うん。でも そこへ ハリネズミが 2匹、とびこんできたんだ」

それからもバッファローが3匹、ヒョウが4匹、ライオンが5匹、ゴリラが6匹……。

ヤギくんは、うなずきます。

「なあるほど! だから きみは おしだされて、あめに ぬれちゃった というわけか!」

 

ううん、ちがうのです。

あのね、ブタくんがびしょぬれになったわけはね……。

とっても痛快、爽快。きっとどなたも笑ってしまうはず。

 

たくさんの動物たちが出てくる十までの数字の本であるとともに、ヤギくんとブタくんの漫才のような会話が愉快です。

そしてなによりも素敵なのは、ブタくんの子ども心。

初夏の噴水のように、きらきらしていて、読み聞かせにおすすめの一冊です。

 

バイロン・バートンの絵本

うちゅうにいきたいな

うちゅうにいきたいな

バイロン・バートン 作  好学社

 

アメリカで原書が刊行されたのは1988年。

日本でも、ふじたちえさんの翻訳で出版されましたが、なぜか三度も絶版。

いい本なのにもったいない!ということで、新たな翻訳で復刊することになりました。

 

40年近いあいだに宇宙開発はずいぶん進み、この本のモデルとなったスペースシャトル事業が終了し、民間人の宇宙旅行もSFではなくなりました。

ちょっとは近づいたけれど、でもまだまだ遠い大きな夢。

空を眺めて宇宙ってどんなところだろうと思い巡らす楽しさは不変です。

どうかそれが、永遠に平和的なものでありますように…。

 

編集は、過去に出版されたさまざまな版を取り寄せてくれた山口堅太郎さん。

微妙な差異を比較検討して今回こそ決定版をめざすという力強い言葉に励まされました。

装幀は、宇佐美牧子さん。古さを感じさせない表紙は、バートンの底力もさることながら、宇佐美さんのおかげです。タイトルの空色が素敵でしょ。

 

 

翻訳作業中のお話は、こちらから。

https://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=190

いえができるよ

いえができるよ

バイロン・バートン 作絵 好学社

 

原題は"Building A House"

1981年にアメリカで出版された絵本です。

「ひこうきにのろう」と、ほぼ同じ頃ですね。

 

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 みどりのはらっぱに、働く車がやってきて、あなを掘り、セメントをどろどろ流しこみ……。

バートン特有のとぼけたミニマリズムで、ずんずん家が建っていきます。

 

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バートンですから、子どもの好奇心のツボは外しません。

水道管をつないだり、壁の内側に電気の線を通す作業なんて、おとなだって、のぞき込みたくなりますよね。

 

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そして、家が完成すると、そこに住む家族が引っ越してきます。

 

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「ここが わたしたちの いえ」。

暮らしを支えてくれる、たくさんの人の手にも思いをはせることができるようになるかもしれません。

地にしっかりと根ざした、あたたかな絵本だと思います。

 

編集は、配線作業の場面にうっとりしていた山口堅太郎さん。

装幀は、「ひこうきにのろう」と同じく、ちょっと色あせていた80年代の本に鮮やかな息吹を吹き込んでくれた宇佐美牧子さん。

 

制作中の記事は、こちらからどうぞ。

https://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=177 

ひこうきにのろう

ひこうきにのろう

バイロン・バートン作  好学社

 

1982年にアメリカで刊行された絵本です。

原題は "Airport"。

直訳だと「くうこう」になりますが、平仮名表記がイマイチであることと、飛行機に乗りこんで離陸するまでのわくわく感を描いた本なので、日本語版タイトルを『ひこうきにのろう』としました。

 

バイロン・バートンは、幼い子どもが興味をいだく物事を、それ以上でもそれ以下でもないシンプルさでむんずと掴んで見せてくれます。

たしかに子どもはこういうところを見ているよね、と納得することがしばしば。

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大雑把なようでも、魅力のツボは外しません。

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鮮やかで迷いのない色彩も魅力です。

1930年生まれのバートンは、70代半ばからコンピューターで絵を描くことにも挑戦したとか。

新しい絵の具を手に入れた子どものように、80歳を過ぎても新作を発表していたようですが、今年の6月、92歳で亡くなりました。

ありがとう、バイロン・バートン。

 

 

編集は、初お手合わせの山口堅太郎さん。

わたしのブログ「ときたま日記」に「古い絵本のリペア仕事がだいすきです」とあったのを読んで声をかけてくださったそうです。嬉しい。

 

装幀は、宇佐美牧子さん。

1980年代のノスタルジックな雰囲気を残しつつ、パキッと新鮮な魅力も加味してくださいました。

きょうりゅうきょうりゅう

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バイロン・バートン 作絵  徳間書店

 

パキッとあざやかな色。くりくりっと、かわいいフォルムのきょうりゅうたち。

文章は…

 

 おおむかし

 きょうりゅうが いた

 つのの はえた きょうりゅう

 とげの はえた きょうりゅう

 しっぽに こぶの ついた きょうりゅう

   (6行 省略)

 たたかう きょうりゅう

 にげる きょうりゅう

 きょうりゅうも やっぱり おなかが すいた

 つかれると やっぱり ねむくなった

 きょうりゅう きょうりゅう おおむかし

 

以上で丸ごと一冊ぶん。短いですよね。

わたしの翻訳絵本2冊目の仕事です。

初めて書店にならんだときは嬉しくて、売り場にいきました。

すると四才くらいの女の子が走ってきて、この本をとりあげたではありませんか。

「かわいい! ママ、これ買って!」

ひゃぁ〜、わたしの翻訳した本が読者に買ってもらえる瞬間を目撃しちゃう!? 心臓がもうバクバク。

 

ところが後からやってきたママは、ちらりと見るなり、おっしゃいました。

「文章短いから、ここで読んじゃいなさい。べつの買っていきましょう」

……… が〜〜〜ん!(×_×)

 

さて、質問です。

絵本のお値段は、文字の量で決まるものでしょうか?

ちがいますよねー。

絵本は、絵と文でできています。

絵本の文は背骨で、絵本の絵は肉や皮膚。このふたつがうまく合わさってハーモニーを奏でることで、ひとつの作品となっているのです。

だから、どうぞ絵を「読んで」ください。

子どもは絵を読みます。でも、おとなになると、絵が読めなくなる人のほうが多い。絵本はずいぶんと割りの悪い買い物になってしまいます。

もったいたない、もったいない。

 

絵をじっくり読めば、文章が触れていない、きょうりゅうたちの息づかいが伝わってくるはず。

端々のドラマに気づき、味わって読み進めば、さいごの頁にいきついたときには、ほおっと小さく満足の吐息もでてくるかも。

はじめての恐竜図鑑としても、おすすめです。

 

ちなみに、それから30年近くたちますが、じぶんの本が買われていく現場には遭遇できていません…。

 

さんびきのくま

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バイロン・バートン 作絵  徳間書店

 

パキッと元気なビタミンカラー、くりくりっとかわいいフォルムで語る「さんびきのくま」。

森の3匹のくまさんが、お粥を作ってでかけた留守中に、人間の女の子がやってきて、くまの家に無断で入り、大中小のおわんのお粥をたべ、大中小の椅子をためして壊し、大中小のベッドでねてしまうという、有名なむかし話です。

むかし話は、再話によって、ずいぶん印象のちがうものになります。

おぎょうぎの悪い子は怖い目にあうのだとばかりに、女の子がくまに追いかけられたり、かみつかれたりする教育的な本が多いかも。

でもこの本では、人間の女の子、きんいろまきげちゃんは、はつらつとした自然児で、心のおもむくままに行動しただけ。

くまだって、きんいろまきげちゃんといっしょに、びっくりぎょうてんしているだけ。

それでおしまい。一回かぎりの出会い。

なんとも、とぼけたおかしみがのこります。

 

こんなふうに単純にしても、やっぱりおもしろいのは、むかし話が骨太だからでしょうね。

 

ちいさなあかいめんどり

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バイロン・バートン 作絵  徳間書店

 

元気なキャンディーカラーで語る イギリスの昔話です。

働き者の赤いめんどりが、小麦の粒をみつけました。畑にまいて育てようと思います。

「てつだってくれる?」と なかまの ぶたと あひると ねこにたずねますが、へんじは「やだよ」。

赤いめんどりは しかたなく「それでは ひとりで やりましょう」

 

そのくりかえし。

せっせと ワンオペ労働をこなす赤いめんどり。

ようやく小麦が  おいしいパンになったとき、ちょっといじわるをしてやります。

結末に にやりとするママたちも少なくないのでは。

 

もっとも、ひよこたちだけは 働かなくても ちゃんとパンをもらえます。

文章にでてこないキャラクターを生き生きと遊ばせるのも 絵本の醍醐味ですね。

 

ぶたと あひると ねこの「やだよ」のくりかえしが、イヤイヤ世代の絵本初心者ちゃんに ぴったりだと思うのですが、あいにく絶版です。

 

ジョン・クラッセンの絵本

これは もり ・ これは しま ・ これは のうじょう

これは もり ・ これは しま ・ これは のうじょう

ジョン・クラッセン 作  徳間書店

 

このギョロ目をみたら、クラッセン!

…というくらいに印象的な絵を一層シンプルにしたボードブックが3冊刊行されました。

 

いわゆる「赤ちゃん絵本」になります。

赤ちゃん絵本は、独特のジャンルです。

読者対象は、起承転結にも感動にも、主人公の悩みにも関心がない幼い人たち。

おそらく「もり」も「しま」も「のうじょう」も知らないでしょう。

 

そんな小さな読者たちを、どうしたら本に惹きつけられるのか。

クラッセンは、並々ならぬ意欲で臨んだようです。

  

私も翻訳しているときに担当編集者と「これって、おもちゃの世界だよね」と話しました。

うちにある木の玩具を並べた打合せ風景写真が、こちら。

 

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「これは あなたの キリン。アリクイの となりに おくね」

そう呟くと、たちまち空間がひろがります。

それだけで、もうじゅうぶん楽しい。

 

クラッセンは、台紙にさまざまな形のフェルトを貼りつけて遊ぶファジーフェルトという玩具を意識していたそうです。本を読む子どもたちにも空想のなかで参加して、じぶんの世界をつくりあげてほしいと。

3冊とも「これは きみの おひさま。」という文章ではじまるのですが、「きみの」というところが、かんじん。

だって本を読むのは、心のなかにじぶんだけの時空間をつくる行いだから。

読んであげる大人も、子どもたちとの会話をたのしんでほしいものです。

絵本の魅力は、ちょっと開けた遊び場でもあるところですね。

 

さらにクラッセンは、ボードブックという「モノ」も好きなのだそう。

厚紙でできていて、赤ちゃんがなめたり囓ったりしても壊れない頑丈な本。

たしかに物質感があります…。

表紙の角まで丸く包んであって、とても丁寧な作りになっています。

 

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こんなふうに、すべての角を丸くするのって、とても大変なんですよ。

小さな読者たちの歯形やよだれの跡は、愛された勲章です♡

 

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おおかみの おなかの なかで

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マック・バーネット 文  ジョン・クラッセン  絵  徳間書店

 

  あるあさ、ねずみが

  おおかみに あいました。そして……

 

  (物語が始まったばかりだというのに)

 

  ぱくっと たべられてしまいました。

 

そんなわけで以下、物語の舞台はほぼ一貫して、おおかみのおなかの中。

おしゃれで、とぼけていて、くすくす、ぷふぷふ笑える絵本です。

 

なにをかくそう、わたしが翻訳家修業をしたのは、コメディ専門の小劇団でした。

「日本人にもっと笑いを」をモットーに旗揚げしたという熊倉一雄さんや、納谷悟朗さん。

今は亡き名優達に笑いの豊かさを教えてもらったことを思い出しながらの楽しい仕事でした。

  

メイキング話はこちらからどうぞ。

原作者二人の のほほんとした漫才みたいなYouTube動画もご紹介しています。

 

 その1http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=28

 その2 http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=35

 その3http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=60

 

編集は、小島範子さん。

おおかみや、きょうりゅうなど、おもにコワモテ主人公の物語をご一緒しています。。

装丁は、クラッセンならまかせろ、の森枝雄司さん。

サムとデイブ あなをほる

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マック・バーネット 文  ジョン・クラッセン 絵  あすなろ書房

 

サムとデイブは、おじいちゃんの家の庭で、大きな穴を掘りました。

なにか、すっごいものをみつけるまで、がんばって掘ることにしたのです。

 

 あなは ずんずん ふかくなり、

 ふたりは すっぽり あなのなか。

 けれど、なんにも でてこない。

 

「もっと ほらなくちゃね」

それでも、なんにも出てこないので、掘る方向をかえてみます。

横に掘ったり、ななめに掘ったり。

あとちょっとでみつかったはずの、すっごい宝物は、読者にしかみえません。

あはは、惜しい〜!

と、わたしたちは笑います。いわば、じぶんの運命をしらない人間たちを天上から余裕たっぷりにみつめる神さまの気分。

これって本を読む者の特権ですもんね。

 

サムとデイブは、さんざん掘ったあげく、くたびれはてて、ふかいふかい眠りにおちます。

するととつぜん、おっこちた。

おっこちて、おっこちて、まだまだおちて………………どすん!

と、おじいちゃんの家の庭の上。

やれやれ、くたびれたねと、おやつを食べに、おじいちゃんの家に帰っていきます。

 

え?

ちょっとまって! そこって、ほんとにおじいちゃんの家なの???

天上の神であったはずのわたしたちは、わけがわからなくなって、目をぱちくり。取り残された気分で、あわててしまいます。

なんともいえない、おかしみを味わってください。

なんだかメビウスの輪のような物語です。

 

ところで、文をかいたマック・バーネットと、絵をかいたジョン・クラッセンは、親しい友人のようですよ。

ふたりとも、永遠のいたずら少年でサムとデイブみたいだと、わたしは勝手に思っています。

 

 

アナベルとふしぎなけいと

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マック・バーネット 文  ジョン・クラッセン 絵  あすなろ書房

 

 どっちを むいても しろい ゆき。

 そして えんとつから でる、くろい すす。

 

そんなモノトーンの世界で、アナベルは箱をひろいます。

なかに入っていたのは、色とりどりのきれいな毛糸。

アナベルはセーターを編みます。

カラフルで、あたたかそうなセーターを。

まだ毛糸がのこっていたので、犬のマースにもセーターを編んであげました。

うらやましくて、いじわるをした男の子にも。

めだちすぎだと叱った先生にも。

家族にも、町の人たちにも、動物たちにも、ボストにも、木にも、家々にも…。

編んでも編んでも毛糸はなくなることがなく、町の景色がかわっていきます。

すると海のむこうから、おしゃれで欲張りな王子が箱を奪いにやってくるのです。

 

でも、ご心配なく。

だって、色あざやかなくらしを、ひと針ずつちくちくと手もとから編みだすことのできる人が、ずっと幸せなのは、あたりまえですもん。

 

すみからすみまで、おしゃれな絵本です。

装丁家の城所潤さんが、ちくちくと手間をかけて、表紙のタイトルもセーター模様にしてくれました。

 

 

 

 

ドン・フリーマンの絵本

しずかに! ここはどうぶつのとしょかんです

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ドン・フリーマン 作絵  BL出版

 

カリーナは としょかんが だいすき。

この日も、あこがれの司書さんと ちょっとおしゃべりをして、どうぶつの本をよみました。 

 

 どうぶつたちも ほんを よみたいかもしれないな。

 わたしが としょかんの ひとだったら、

 どうぶつだけが としょかんに はいれる とくべつな ひを つくるのに…

 

そこから、カリーナの空想が むくむく。

ほら、空想のなかのカリーナは、司書さんといっしょの おだんごヘアですよ。

 

色もやさしいパステルカラーで、ほんとにかわいい絵本です。

ドン・フリーマンは「くまのコールテンくん」で有名なアメリカ人の絵本作家。

ジャズトランペッターだったのに、地下鉄でトランペットを置き忘れたのをきっかけに絵に専念…って、泣き笑いのような経歴の持ち主です。

1978年に70歳で亡くなっており、いまの著作権者は息子のロイ・フリーマンさん。

翻訳にあたり、いくつか質問をさせていただきましたが、おとうさんによく似た、やさしいおじいちゃまのようでした。

 

そのロンさんに許可をお願いしたことのひとつを、ここで告白しましょう。

原書では、主人公の名前は Cary、ケアリーです。

それをわたしはカリーナに変えてしまいました。なぜかというと、このお話では、カナリアがとても重要な役割をはたしているから。

カナリアは英語では Canary。キャナアリーという発音になり、主人公の名前ケアリーと、音も綴りも、微妙によく似ているのです。

まあ、英語ネイティブ読者も10人に8人は気づかないでしょうけど。

 

日本語でカナリアに似た名前ってなんでしょう。カナちゃんとか?

だめだめ。それじゃ10人のうち9人が気づいちゃう。

で、思いついたのが、カリーナ。

するするっと読めば気づかない。

本をさいごまで読んで主人公とカナリアとの絆がわかったら、10人のうち2人が気づくかも。

もしかしたら二度目、三度目に読んだときに?

それでじゅうぶん。

絵本は、何度も読んでいただくことを前提としておりますので。

 

 

 

ダッシュだ、フラッシュ!

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ドン・フリーマン 作絵  BL出版

 

ダックスフントの夫婦のおはなしです。

フラッシュは なまけもの。まいにち、ひるねばかり。

はたらくのは おくさんの シャッセばっかり。もう限界!

「きょうは あなたが しごとに いって たべものを さがしてきてちょうだい」

 

お尻をたたかれ、しぶしぶ出かけたフラッシュは、あろうことか 電報屋さんに就職します。

「あしの はやいかた」という条件なのにねえ。

でも だいじょうぶ。

足のみじかいフラッシュは、混み合う街の人々の足もとをくぐりぬけて ミッションコンプリート! やればできる!

ほめられて 労働の喜びにめざめたフラッシュ。こんどは一転、ワーカホリックになってしまって、ろくに家に帰りもしません。

あきれ顔の 妻シャッセ。

そのうちに、ほらみたことか、燃え尽き症候群…。

けれども、さいごは ほんわかとしたハッピーエンドにまとまります。めでたし めでたし。

 

家庭生活アルアルの夫と妻の物語ですが、こんなふうに 子どもも含めてみんなで楽しめる絵本にしてしまうあたりが  ドン・フリーマンの力、あるいは古き良きアメリカの包容力なのかなと、今となっては博物館ピースとなった「電報」という媒体とともに、遠いまなざしで眺めてしまいます。

 

 

 

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