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フランソワーズの絵本
ありがとうのえほん
フランソワーズ 作絵 偕成社
コケコッコー ! おはよう おんどり ありがとう
きょうも ぱっちり めが さめた
あさごはんに ゆでたまご
かわいい めんどり ありがとう
こんなふうに、つぎつぎと いろんな「ありがとう」がつづられます。
ふわふわと あまい砂糖菓子のような絵とともに。
にわの さくらんぼにも、わたしや だいじなものを まもってくれる おうちにも、ありがとう。
そして さいごに
こんなに すてきなものを いっぱい くれた かみさま
ほんとに ありがとう
ゆっくりと声にだして読んでいると、しだいに心の固い殻がほどけてきます。
あたりまえのことの尊さを、しっかり味わえる人でいようと、にっこりしてしまうような絵本です。
この絵本を作ったフランソワーズには、ちゃんと苗字もあります。正しくはフランソワーズ・セニョーボ。1897年にフランスで生まれて、のちにアメリカへ移住した画家です。
「まりーちゃんとひつじ」は、とても有名ですね。幼いわたしの愛読書でもありました。
クッキーに飾るアイシングを、むかしの本では「砂糖ごろも」と呼んでいましたが、フランソワーズの絵は、まさにその砂糖ごろものよう。
アイシングではなく、とろりとした、おさとうのころも。やわらかくて、あまくて、かわいらしい。
天衣無縫とは、この人の絵のことと思えるのびやかな愛らしさ。
けれども、以前、アメリカでフランソワーズの原画を手にとって眺めたとき、おおらかな絵の具の下に、うっすらと、とても細くてとても神経質な鉛筆の線があることに気づきました。
ま、そういうものかもね、と、にやりとした次第です。
わたしのすきなもの
フランソワーズ 作絵 偕成社
わたし いきものが すき
けの ふわふわした いきものも
はねの はえた いきものも
けも はねも ない いきものも
みんな だいすき
ほっぺの まあるい おんなのこが、うさぎや小鳥、てんとうむし、そしてイモリ?にかこまれて、にっこり。ああ、なんてかわいらしい…。
いちばん すきなのは、おうちのねこのミネットだそうですが、おんなのこの思いは はるか遠くへ とんでいきます。
おおむかし、世界中が洪水になったとき、はこぶねをつくって どうぶつたちをすくってくれたノア ありがとう、って。
おんなのこは ひとも すき。あかちゃんも おとしよりも おおきな ひとも ちいさな ひとも。
おうちが すき。 おいしいものが すき。 ピクニックが すき。 なつやすみも すき。
すきなものを たくさん たくさん あげていって、さいごの ページは…
ほらね わたし すきなものが こんなに いっぱい あるの
あなたの すきなものは なあに?
「ありがとうの えほん」と似た趣向ですが、こちらのほうがもっと積極的かな。
「ありがとうの えほん」の出版は1947年で、フランソワーズが50歳のとき。
「わたしの すきなもの」の出版は1960年。フランソワーズが63歳、亡くなる1年前です。
絵はさらにあかるく、愛らしくなっています。
こんな愛らしい絵をかいた晩年とは、いったい どのようなものだったのでしょうね。
おおきくなったら なにになる?
フランソワーズ 作絵 偕成社
ねえ ねえ みんな おしえて おしえて
おおきくなったら なにに なりたい?
なにを する?
ページをめくると、そこは 「まりーちゃんと ひつじ」の風景。
いなかに すんで ちいさなロバと アヒルと うさぎと
それから かわいい こひつじを かってみたい?
いかにも絵本っぽい夢物語と思われるでしょうが、当時ニューヨークで仕事をしていたフランソワーズは、休暇には故郷のフランスで田舎暮らしをたのしんでいたそうです。だからこれは彼女の現実。
むむむ、うらやましい。ちょっと見る目がかわってしまいますが(^_^;)、まあ、それはさておき、ふなのり、たんけんか、ペットやさん、ぼうしやさん…と いろいろな将来の夢が提案されます。ホテルのペットがかりも、おもしろそうですね。
この冒頭の原文は
Tommy and Bobby, Jinny and Molly, Tony and Franny --
all of you--tell me what do you want to be?
これをそのまま「トミー、ボビー、ジニー、モリー、トニー、フラニー」としないのも、こどもの絵本の翻訳家の仕事だとおもっています。
それにしても、ああ なんてかわいい……(ためいき)。
たのしいABC
フランソワーズ 作絵 徳間書店
Aのつくもの apple
appleは りんご
ぼくは りんごうり
みなさん かってね おいしいよ
というぐあいに、AからZまで。かわいい絵とともにアルファベットが紹介されます。
わたしのお気に入りは X。
Xのつくもの X
Xで はじまる ことばは あんまり ない
だから Xのクッキーを つくったよ
いっしょに たべよう
1939年初版。フランス生まれのフランソワーズがアメリカに渡って仕事を始めてまもない頃の本です。
こういう古い絵本の翻訳には、独特のむずかしさがあります。
まず、原書が手に入らない! 学校や公共図書館のボロボロになった廃棄本を、まるで唐の国から渡来した仏典のように大切にスタッフ一同で共有することもしばしば。
とうぜんのことながら、原画が手に入らない! 運良くコレクターや美術館で保管されている原画の一部を見ることができたとしても、そこに至るまでに日に焼けて退色していたりして本来の色がわからないなんて、しょっちゅう。日本で出版されている美しい本は、編集者や装丁家、そして印刷所のみなさんの研究と努力の賜物です。
表現がいまの時代に合わない。 たまに差別的な表現もあります。
それでも、もういちど世に出したいと思わせる魅力にあふれる本たち。
古い本のリペア仕事、だいすきです。