わたしの本のこと

ジョン・クラッセンの絵本

これは もり ・ これは しま ・ これは のうじょう

これは もり ・ これは しま ・ これは のうじょう

ジョン・クラッセン 作  徳間書店

 

このギョロ目をみたら、クラッセン!

…というくらいに印象的な絵を一層シンプルにしたボードブックが3冊刊行されました。

 

いわゆる「赤ちゃん絵本」になります。

赤ちゃん絵本は、独特のジャンルです。

読者対象は、起承転結にも感動にも、主人公の悩みにも関心がない幼い人たち。

おそらく「もり」も「しま」も「のうじょう」も知らないでしょう。

 

そんな小さな読者たちを、どうしたら本に惹きつけられるのか。

クラッセンは、並々ならぬ意欲で臨んだようです。

  

私も翻訳しているときに担当編集者と「これって、おもちゃの世界だよね」と話しました。

うちにある木の玩具を並べた打合せ風景写真が、こちら。

 

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「これは あなたの キリン。アリクイの となりに おくね」

そう呟くと、たちまち空間がひろがります。

それだけで、もうじゅうぶん楽しい。

 

クラッセンは、台紙にさまざまな形のフェルトを貼りつけて遊ぶファジーフェルトという玩具を意識していたそうです。本を読む子どもたちにも空想のなかで参加して、じぶんの世界をつくりあげてほしいと。

3冊とも「これは きみの おひさま。」という文章ではじまるのですが、「きみの」というところが、かんじん。

だって本を読むのは、心のなかにじぶんだけの時空間をつくる行いだから。

読んであげる大人も、子どもたちとの会話をたのしんでほしいものです。

絵本の魅力は、ちょっと開けた遊び場でもあるところですね。

 

さらにクラッセンは、ボードブックという「モノ」も好きなのだそう。

厚紙でできていて、赤ちゃんがなめたり囓ったりしても壊れない頑丈な本。

たしかに物質感があります…。

表紙の角まで丸く包んであって、とても丁寧な作りになっています。

 

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こんなふうに、すべての角を丸くするのって、とても大変なんですよ。

小さな読者たちの歯形やよだれの跡は、愛された勲章です♡

 

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おおかみの おなかの なかで

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マック・バーネット 文  ジョン・クラッセン  絵  徳間書店

 

  あるあさ、ねずみが

  おおかみに あいました。そして……

 

  (物語が始まったばかりだというのに)

 

  ぱくっと たべられてしまいました。

 

そんなわけで以下、物語の舞台はほぼ一貫して、おおかみのおなかの中。

おしゃれで、とぼけていて、くすくす、ぷふぷふ笑える絵本です。

 

なにをかくそう、わたしが翻訳家修業をしたのは、コメディ専門の小劇団でした。

「日本人にもっと笑いを」をモットーに旗揚げしたという熊倉一雄さんや、納谷悟朗さん。

今は亡き名優達に笑いの豊かさを教えてもらったことを思い出しながらの楽しい仕事でした。

  

メイキング話はこちらからどうぞ。

原作者二人の のほほんとした漫才みたいなYouTube動画もご紹介しています。

 

 その1http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=28

 その2 http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=35

 その3http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=60

 

編集は、小島範子さん。

おおかみや、きょうりゅうなど、おもにコワモテ主人公の物語をご一緒しています。。

装丁は、クラッセンならまかせろ、の森枝雄司さん。

サムとデイブ あなをほる

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マック・バーネット 文  ジョン・クラッセン 絵  あすなろ書房

 

サムとデイブは、おじいちゃんの家の庭で、大きな穴を掘りました。

なにか、すっごいものをみつけるまで、がんばって掘ることにしたのです。

 

 あなは ずんずん ふかくなり、

 ふたりは すっぽり あなのなか。

 けれど、なんにも でてこない。

 

「もっと ほらなくちゃね」

それでも、なんにも出てこないので、掘る方向をかえてみます。

横に掘ったり、ななめに掘ったり。

あとちょっとでみつかったはずの、すっごい宝物は、読者にしかみえません。

あはは、惜しい〜!

と、わたしたちは笑います。いわば、じぶんの運命をしらない人間たちを天上から余裕たっぷりにみつめる神さまの気分。

これって本を読む者の特権ですもんね。

 

サムとデイブは、さんざん掘ったあげく、くたびれはてて、ふかいふかい眠りにおちます。

するととつぜん、おっこちた。

おっこちて、おっこちて、まだまだおちて………………どすん!

と、おじいちゃんの家の庭の上。

やれやれ、くたびれたねと、おやつを食べに、おじいちゃんの家に帰っていきます。

 

え?

ちょっとまって! そこって、ほんとにおじいちゃんの家なの???

天上の神であったはずのわたしたちは、わけがわからなくなって、目をぱちくり。取り残された気分で、あわててしまいます。

なんともいえない、おかしみを味わってください。

なんだかメビウスの輪のような物語です。

 

ところで、文をかいたマック・バーネットと、絵をかいたジョン・クラッセンは、親しい友人のようですよ。

ふたりとも、永遠のいたずら少年でサムとデイブみたいだと、わたしは勝手に思っています。

 

 

アナベルとふしぎなけいと

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マック・バーネット 文  ジョン・クラッセン 絵  あすなろ書房

 

 どっちを むいても しろい ゆき。

 そして えんとつから でる、くろい すす。

 

そんなモノトーンの世界で、アナベルは箱をひろいます。

なかに入っていたのは、色とりどりのきれいな毛糸。

アナベルはセーターを編みます。

カラフルで、あたたかそうなセーターを。

まだ毛糸がのこっていたので、犬のマースにもセーターを編んであげました。

うらやましくて、いじわるをした男の子にも。

めだちすぎだと叱った先生にも。

家族にも、町の人たちにも、動物たちにも、ボストにも、木にも、家々にも…。

編んでも編んでも毛糸はなくなることがなく、町の景色がかわっていきます。

すると海のむこうから、おしゃれで欲張りな王子が箱を奪いにやってくるのです。

 

でも、ご心配なく。

だって、色あざやかなくらしを、ひと針ずつちくちくと手もとから編みだすことのできる人が、ずっと幸せなのは、あたりまえですもん。

 

すみからすみまで、おしゃれな絵本です。

装丁家の城所潤さんが、ちくちくと手間をかけて、表紙のタイトルもセーター模様にしてくれました。

 

 

 

 

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