わたしの本のこと

ピーター・レイノルズの絵本

っぽい

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ピーター・レイノルズ 作絵  主婦の友社

 

ラモンはとてもたのしく絵を描いていたのに、おにいちゃんに「ちっとも似てないじゃん」と笑われて傷つき、ぷっつりと絵を描かなくなってしまいます。

そのラモンの心をすうっと広げてくれたのが、妹マリソルの「わたし、すきだよ。○○っぽい絵だもん」という言葉。

そうか、それでもいいのか…と、ラモンは自由になります。

 

表現するって、どんなことなのでしょうね?

そっくりに再現することではないはず。

ラモンの気づきは、絵にとどまらず、生き方まで広がっていきます。

 

そういえば、ラモンくんには、ピーター・レイノルズのべつな絵本のなかで前に会ったような…。

「てん」(谷川俊太郎訳 あすなろ書房)のラストにでてきた小さな男の子の成長した姿だろうと、私は思っています。どうですか?

 

現代は " ish "。

○○らしい、○○みたい、○○くらい…などの意味で、別の単語にくっつける小さなコトバです。

たとえば、30-ish といえば、30歳くらいのという意味。

曖昧にごまかす表現なので、あんまり格が高くないけれど便利なコトバ。

日本語にするなら「っぽい」だなと、私は早い段階で決意しておりました。

読みにくい、意味がまったくわからない、ゴミ捨ての本だと誤解されそう、などなどの至極真っ当な反対を押し切らせていただきました。(^o^)

装丁家、水﨑真奈美さんの描き文字がかっこいい。

 

こころのおと

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ピーター・レイノルズ 作絵  主婦の友社

 

小さなラジは、ピアノで遊ぶのがだいすきでした。

たたくと、いろんな音が とびだしてくるし、

ペダルをふめば、水彩絵の具のように 音がにじむ。

 

夢のような音色に驚いたお父さんは、ラジに音楽の才能を認めて、ピアノを習わせます。

まじめなラジは一生懸命練習をして、どんどん上達します。

ところが上手になればなるほど、ピアノを弾くことが楽しくなくなってしまったのです。

 

やがてラジは社会人になり、ピアノをやめて、家を出ていきます。

音楽の消えた家で、お父さんは、ひとりしずかに老いの時間を重ねていきます。

 

そしてあるとき倒れて、ラジが呼ばれます。

「なにか、僕にしてほしいこと ない?」

たずねたラジに、お父さんは頼みます。

小さなころ、いかにも楽しげに弾いていた曲名のない音楽を奏でてほしいと。

 

 

作者ピーター・レイノルズの文章が寄せられています。

 

  病床の父と、父の瞳に輝きをとりもどしたいと願う私のあいだに、

  ことばはありませんでした。

  かたちをもたない感情がゆきかうばかり。

  それにもっとも近いものが音楽だったのです。

 

 

テスの木

テスの木

ジェス・ブロウヤー 文  ピーター・レイノルズ 絵  主婦の友社

 

テスは、6歳です。

そしてテスの家の庭にある大きな木は、175歳です。

テスは、この木がだいすきで、まいにち、木の下で遊びました。

 

けれども嵐が来て、木の枝が折れてしまいます。

内側が腐っていて危険だと、伐採されてしまうのです。

 

テスは、怒りました。

さんざん、泣きました。

そしてふと、お葬式をしてあげようと思いつきます。

 

お葬式には、近所の人にくわえて、テスの知らない人たちもやってきました。

長く生きた大きな木には、たくさんの思い出があったのです。

テスはもう、泣きません。

 

喪失の悲しみを和らげ、未来へとつなぐ方法がやさしく語られています。

  

いちばんちいさなクリスマスプレゼント

いちばんちいさなクリスマスプレゼント

ピーター・レイノルズ 作絵   主婦の友社

 

ローランドは、クリスマスにもらえるプレゼントを、とても楽しみにしていました。

ところが今年のプレゼントは、今まででいちばん小さかったのです…。

(おとなは、上等なプレゼントはたいてい小さな箱に入っていることを知っていますけどね)

 

ローランドは、怒ります。

眉間に皺をよせ、目をぎゅっと閉じて、願います。

「どうか おおきな プレゼントに かえてください」

 

目をあけると…

おっ、サイズアップしてるではないか!

 

だったら、もうちょっと大きいのがいいな。

うん、いいぞいいぞ。

でも、どうせだったら、もっとずっと大きいほうがいいな。

 

ローランドの願望はとどまるところを知らず、ついにはなんと、ロケットに乗って宇宙空間に飛び出してしまいます!

なんと壮大な…。

 

ところが。

広大無辺な宇宙を飛ぶロケットから眺めると、ぽつんと小さな青い星がみえるのです。

あの小さな星の中に、ぼくのたいせつなものが、ぜんぶ、つまっているんだね。

ローランドの胸が、きゅうっと痛くなりました。

ローランドは、目をそっと閉じて、心の底からしずかに祈りました。

すると、ほら……

 

クリスマスの幸福を描いた小さな絵本。

ピーター・レイノルズが、息子のヘンリー・ロケット・レイノルズくんに捧げた一冊です。

 

 

 

そらのいろって

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ピーター・レイノルズ 作絵  主婦の友社

 

マリソルは、絵を描くことが大好きな女の子。

学校のみんなで大きな壁画をかくことになり、マリソルは空を受け持ちます。

ところが、困ったことに青い絵の具がみあたらない!

青がなかったら、空なんてかけるはずないのに…。

そのときマリソルは空をみあげます。夕方の空を、夜空を、夢のなかでも。

空は青くない!

豊かな色にみちた世界がひろがり、マリソルの心に絵をえがく喜びがみちあふれるのです。

 

このマリソルは、はい、すでにお気づきの方もいるでしょうが、「っぽい」でラモンに「わたし、その絵 すきだよ」といった妹です。

うむ。やっばり、「てん」→「っぽい」→「そらのいろって」は、お絵かき三部作ですね。

 

マリソルはその後、画家になったことでしょう。

でもラモンは、絵描きにはならなかったと思う。詩人になったのではないかしら。

そして「てん」に出てきたワシテは、学校に先生になったのかも。

子どもが絵をかくのは、画家になるためではありません。

もっと広く豊かな可能性のため、人生をよりよく歩むためです。

 

我田引水的ですが、拙著「おえかきウォッチング」もごらんください。(^^)/

 http://chihironn.com/menu/566056

 

びじゅつかんへいこう

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スーザン・ベルデ 文  ピーター・レイノルズ 絵  国土社

 

美術館へやってきた女の子。

バレリーナの絵をみれば踊りだし、キュビズムの絵にはあかんべをし、抽象画をみて笑いころげます。感じたままに、からだで反応。

解説やタイトルから「正しい鑑賞」を探ろうとはしません。

そして深い満足とともに、美術館をでていきます。

 

  わたしの むねの なかは

  どっくん どっくん あたたかい。

  びじゅつかんが まるごと はいっているみたいにね。

 

この子が靴をはいていないのが象徴的かも。

こんなふうに、よけいな身構えなしに、ふだんの気分で作品とむきあえるのがうらやましい。

鑑賞者の心のもちようもさりながら、美術館の環境整備にも改善すべき点はあるよなあ…と、先日でかけた美術展の大混雑を思い出して、ちょっとためいき…。

 

ゆめみるハッピードリーマー

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ピーター・レイノルズ 作絵  主婦の友社

 

原題は Happy Dreamer ですが、著者のピーターが構想段階でつけていたタイトルは Amazing Delightful Happy Dreamer でした。

そう、これはADHDといわれる子どもたちへの応援歌なのです。

 

「てん」や「ちいさなあなたへ」をはじめ、数々のヒット絵本を創り出したピーターも学校では苦労をしたようです。

それでも自信と誇りをもって、みずからを「ハッピードリーマー」だと言い、ADHDといわれた子どもたちへ熱いメッセージを送ります。

 

   きみやぼくのように夢をみる人、つまりドリーマーの人生には、

       おもしろいことがたくさん待ちうけています。

   いま地球がかかえるさまざまな問題には、

       古い考えにとらわれない創造的な頭脳が必要なのですから。

 

発達障害とよばれる子どもたちの近くにいる大人たちに、ぜひ読んでいただきたい絵本です。

ピーターの思いを汲んで、日本語版の帯には「Aあなたは Dだいじな Hハッピー Dドリーマー」と入れました。(^o^)

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