わたしの本のこと

バイロン・バートンの絵本

きょうりゅうきょうりゅう

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バイロン・バートン 作絵  徳間書店

 

パキッとあざやかな色。くりくりっと、かわいいフォルムのきょうりゅうたち。

文章は…

 

 おおむかし

 きょうりゅうが いた

 つのの はえた きょうりゅう

 とげの はえた きょうりゅう

 しっぽに こぶの ついた きょうりゅう

   (6行 省略)

 たたかう きょうりゅう

 にげる きょうりゅう

 きょうりゅうも やっぱり おなかが すいた

 つかれると やっぱり ねむくなった

 きょうりゅう きょうりゅう おおむかし

 

以上で丸ごと一冊ぶん。短いですよね。

わたしの翻訳絵本2冊目の仕事です。

初めて書店にならんだときは嬉しくて、売り場にいきました。

すると四才くらいの女の子が走ってきて、この本をとりあげたではありませんか。

「かわいい! ママ、これ買って!」

ひゃぁ〜、わたしの翻訳した本が読者に買ってもらえる瞬間を目撃しちゃう!? 心臓がもうバクバク。

 

ところが後からやってきたママは、ちらりと見るなり、おっしゃいました。

「文章短いから、ここで読んじゃいなさい。べつの買っていきましょう」

……… が〜〜〜ん!(×_×)

 

さて、質問です。

絵本のお値段は、文字の量で決まるものでしょうか?

ちがいますよねー。

絵本は、絵と文でできています。

絵本の文は背骨で、絵本の絵は肉や皮膚。このふたつがうまく合わさってハーモニーを奏でることで、ひとつの作品となっているのです。

だから、どうぞ絵を「読んで」ください。

子どもは絵を読みます。でも、おとなになると、絵が読めなくなる人のほうが多い。絵本はずいぶんと割りの悪い買い物になってしまいます。

もったいたない、もったいない。

 

絵をじっくり読めば、文章が触れていない、きょうりゅうたちの息づかいが伝わってくるはず。

端々のドラマに気づき、味わって読み進めば、さいごの頁にいきついたときには、ほおっと小さく満足の吐息もでてくるかも。

はじめての恐竜図鑑としても、おすすめです。

 

ちなみに、それから30年近くたちますが、じぶんの本が買われていく現場には遭遇できていません…。

 

さんびきのくま

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バイロン・バートン 作絵  徳間書店

 

パキッと元気なビタミンカラー、くりくりっとかわいいフォルムで語る「さんびきのくま」。

森の3匹のくまさんが、お粥を作ってでかけた留守中に、人間の女の子がやってきて、くまの家に無断で入り、大中小のおわんのお粥をたべ、大中小の椅子をためして壊し、大中小のベッドでねてしまうという、有名なむかし話です。

むかし話は、再話によって、ずいぶん印象のちがうものになります。

おぎょうぎの悪い子は怖い目にあうのだとばかりに、女の子がくまに追いかけられたり、かみつかれたりする教育的な本が多いかも。

でもこの本では、人間の女の子、きんいろまきげちゃんは、はつらつとした自然児で、心のおもむくままに行動しただけ。

くまだって、きんいろまきげちゃんといっしょに、びっくりぎょうてんしているだけ。

それでおしまい。一回かぎりの出会い。

なんとも、とぼけたおかしみがのこります。

 

こんなふうに単純にしても、やっぱりおもしろいのは、むかし話が骨太だからでしょうね。

 

ちいさなあかいめんどり

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バイロン・バートン 作絵  徳間書店

 

元気なキャンディーカラーで語る イギリスの昔話です。

働き者の赤いめんどりが、小麦の粒をみつけました。畑にまいて育てようと思います。

「てつだってくれる?」と なかまの ぶたと あひると ねこにたずねますが、へんじは「やだよ」。

赤いめんどりは しかたなく「それでは ひとりで やりましょう」

 

そのくりかえし。

せっせと ワンオペ労働をこなす赤いめんどり。

ようやく小麦が  おいしいパンになったとき、ちょっといじわるをしてやります。

結末に にやりとするママたちも少なくないのでは。

 

もっとも、ひよこたちだけは 働かなくても ちゃんとパンをもらえます。

文章にでてこないキャラクターを生き生きと遊ばせるのも 絵本の醍醐味ですね。

 

ぶたと あひると ねこの「やだよ」のくりかえしが、イヤイヤ世代の絵本初心者ちゃんに ぴったりだと思うのですが、あいにく絶版です。

 

ひこうきにのろう

ひこうきにのろう

バイロン・バートン作  好学社

 

1982年にアメリカで刊行された絵本です。

原題は "Airport"。

直訳だと「くうこう」になりますが、平仮名表記がイマイチであることと、飛行機に乗りこんで離陸するまでのわくわく感を描いた本なので、日本語版タイトルを『ひこうきにのろう』としました。

 

バイロン・バートンは、幼い子どもが興味をいだく物事を、それ以上でもそれ以下でもないシンプルさでむんずと掴んで見せてくれます。

たしかに子どもはこういうところを見ているよね、と納得することがしばしば。

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大雑把なようでも、魅力のツボは外しません。

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鮮やかで迷いのない色彩も魅力です。

1930年生まれのバートンは、70代半ばからコンピューターで絵を描くことにも挑戦したとか。

新しい絵の具を手に入れた子どものように、80歳を過ぎても新作を発表していたようですが、今年の6月、92歳で亡くなりました。

ありがとう、バイロン・バートン。

 

 

編集は、初お手合わせの山口堅太郎さん。

わたしのブログ「ときたま日記」に「古い絵本のリペア仕事がだいすきです」とあったのを読んで声をかけてくださったそうです。嬉しい。

 

装幀は、宇佐美牧子さん。

1980年代のノスタルジックな雰囲気を残しつつ、パキッと新鮮な魅力も加味してくださいました。

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