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エロール・ル・カインの絵本
まほうつかいのむすめ
アントニア・バーバー 文 エロール・ル・カイン 絵 ほるぷ出版
ふしぎな絵。ふしぎな物語です。
世界のてっぺんにある白く冷たい国に、とても力の強い魔法使いがくらしています。
彼の姿は黒いマントで、城も白壁に黄金の尖塔がそびえる典型的な西洋風。
でもその娘ときたら、ひき目かぎ鼻、足もとまで届く黒髪。頭にちょこんと金の冠をのせているけれど、どう見たって平安朝の姫君でしょう。
いえ、衣装は韓国風かな。むすめの部屋の調度品は中国かも。
いやいや、密林の風景はむしろ東南アジア。ところどころ、コーカサス!?
なにこれ、どうなっているの〜?
どうやら、娘と魔法使いは、血の繋がった親子ではないようです。
孤独に耐えられなくなった魔法使いが、幼い女の子をさらい、過去の記憶を封じて育ててきたということ。
物質的にはとても恵まれたくらしでしたが、むすめの心は満たされません。
そのむすめの心を遠くへとばす強い憧れを育てたのが「本」でした。
献辞が「地球を半周飛んでやってきたわたしのむすめに」となっています。
ベトナムから迎えた養女のために描かれた物語だそうです。
そして、絵をかいたル・カインは、イギリス人ですが、シンガポールで生まれ、子ども時代をアジアで過ごしました。
アジア人の血がいくらかまじっていることも強く意識していたようです。
長くはなかったル・カインの人生の、どちらかといえば晩年に描かれた絵でもあり、画風としても今までに試してきた要素が散りばめられています。
彼自身の人生も織りこんだのだろうなと、わたしは勝手に想像をめぐらせています。