わたしの本のこと

翻訳児童文学

のんきなりゅう

ケネス・グレアム 作  インガ・ムーア 絵  徳間書店

 

ケネス・グレアムは『たのしい川べ』で有名なイギリスの作家です。

『のんきなりゅう』のもととなった "The Reluctant Dragon" はグレアムが書いた短編で、日本でも石井桃子さんをはじめ、何人かの方の翻訳で紹介されています。

けれども、なにしろ100年以上前に書かれた作品なので、イギリスの子どもたちにさえ古めかしい表現が多く、敬遠され気味だそうです。

そこで2004年にイギリス人の画家インガ・ムーアが文章を短く剪定し、かわりにたっぷりと絵を添えて出版したのが、この本の原書。

大判の横組み絵本でしたが、日本では縦組みの児童文学の体裁にしました。

 

横組み・縦組み問題については、こちらを読んでいただけると幸いです。

http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=4

絵を小さくしてしまうことに悩みはありましたが、すべての見開きにフルカラーの美しい挿絵が入った贅沢な読み物になりました。 

 

青い大きな竜 vs 騎士の迫力ある八百長試合。小学生男子に、おすすめですよ。

 

 

おすのつぼにすんでいたおばあさん

ルーマー・ゴッデン 作  徳間書店

 

 むかしむかし、おすのつぼの家に、おばあさんがすんでいました。

 

…は? おすのつぼ、ってなに?…と、わたしも思いました。

どうやら、ビールの材料であるホップの乾燥所のようです。

狭苦しい塔のような建物で、その形が、当時お酢をつくるのに使われていた、黄色い釉薬をかけた壺とよく似ていたので、そう呼ばれたらしい。住居とするには、とても粗末なところです。

 

まずしくても、おばあさんは、日々のくらしに満足していました。

わずかな食べものを飼い猫のモルトにあたえてしまうので、おばあさんは、やせっぽち。

あるひ、おばあさんは銀貨をひろいます。

久々に、ごちそうがたべられる! 湖のほとりで、漁師から、とれたての魚をわけてもらったおばあさん。

ところが、魚が苦しそうに口をぱくぱくしているのをみると、かわいそうになって湖に返してしまいます。

 

じつはこの魚、湖の王さまだったんです〜。

お礼に、なんでも望みを叶えてくれるというではありませんか。

お礼なんていりませんよと、おばあさんは固辞しますが、やっぱりおなかがぺこぺこ。おそるおそる、夕飯をお願いしてみます。

するとまあ、ゴージャスなご馳走が山のように現れました。

 

おなかいっぱい。ああ、幸せ。

でも、食べすぎで夜の眠りが浅くなり、家の居住性の低さが気になりはじめました。

そこで魚に、せめてふつうの家に住みたいのだけれどと、遠慮しいしい頼んでみます。

すると即座に、花咲きみだれる庭付一戸建て出現!

 

ラブリーなおうち。ああ、すてき! 今までの古ぼけた寝台や食器棚が、やけにみすぼらしく見えます。

やはり一式そろってリニューアルしてもらわきゃねえ。そもそも家具付きの家って、お願いしたつもりだったんだけど…。

と、このあたりから、だんだん強気になってくるおばあさん。

マホガニーのテーブルに、天蓋付きのベッド、そして洋服ダンスについていた鏡で、おばあさんは、生まれて初めて自分の姿を見ます…。

あらまあ、なんてみじめな……。

ということで、おばあさんも全身リニューアルして、奥様に変身〜!

 

とても身につまされる欲望スパイラルな展開です。

もとのお話であるイギリスの昔話では、よくばりなおばあさんにお仕置きが待っているのですが、物語の名手ルーマー・ゴッデンによる再話の結末は、ちょっとちがいます。

なんでも手に入りそうな豊かな現代、「わたしはこれでじゅうぶん」といえる幸せを、いったい何人の人が手にしているのでしょうか。

挿絵も、たくさん描きましたので、くすくす笑い、じんわり、ぼんやり考えながら楽しんでいただければうれしいです。

 

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魔女のこねこゴブリーノ

アーシュラ・ウィリアムズ 作 平出 衛 絵  福音館書店

 

うつくしい月夜。

森の奥のほらあなから、2ひきの子ねこがとびだしてきました。

魔女のこねこゴブリーノと、妹のスーチカです。

2ひきとも魔女ねこ、つまり魔女の相棒になるべく生まれた、選ばれし黒ねこたち。

ところがなんと、月明かりでみれば、ゴブリーノの前足が白い! 緑であるべき目も青い!

魔女ねことしては、規格外です。

しかもゴブリーノの夢は、人間にかわいがられて、炉端でぬくぬくくらす「台所ねこ」になることですって…。

魔女ねことしては、とんでもない劣等生です。

かわいそうに、つまはじきにされたゴブリーノは、人間たちと暮らそうと旅にでます。

 

けれども、ゴブリーノには魔女ねこの部分もあるので、人間達にこわがられ、きらわれてしまうのです。

すてきな農家。みなしごたちの家。町長さんの家。キャットショーにでたり、宮殿のお姫さまと友だちになったり、船乗りの猫になったり…。ゴブリーノは、かわいがってくれる人をもとめて、はてしなく放浪の旅をつづけます。

 

250ページ。物語初級から中級者にとっては長めの本ですが、漢字は総ルビで、かわいい子ねこの挿絵がたくさん入っています。

ひとつの章が短いので、読みやすいはず。

かわいくて、かわいそうなゴブリーノがいったいどうなっちゃうのかと気になって読み進めていくと、ほおっと、安堵の溜息がもれるハッピーエンドがまっています。

古典的な香りがただよう、読み応えのある物語です。

 

わすれずに、表紙カバーをはずしてみてくださいね。

ロシアンブルーのような灰色の表紙に、虹色にかがやく子ねこたち。

鷹嘴麻衣子さんによる心にくいデザインは、宝物にふさわしいですよ。

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たった一冊のノンフィクション

カモのきょうだい クリとゴマ

アリス館

 

実話です。

アリス館の編集者さんから、子どもと自然をテーマに物語を依頼されていたとき、

息子がカルガモの卵をひろってきて、あたためはじめました。

その卵が孵化し、二羽の子ガモが成長して、ぶじに放鳥できたので、「事実は小説よりも奇なり、ですよ」と編集者さんを説得してノンフィクションとして書きました。

98%は事実の、ウチの物語です。

 

 

おたすけこびとシリーズ

おたすけこびと

コヨセ・ジュンジ 絵  徳間書店

 

きょうりゅうと重機がでてくる絵本「きょうりゅうのたまご」の取材で重機メーカーのショールームを訪問中に、お話がうまれました。

でもわたし、重機を描くのはもううんざりでした。線ばかりで、つまらないんだもん。

すると編集者が、「線が多いほど燃えるぜ!」と豪語する絵描きをさがしてきてくれました。

それがコヨセ・ジュンジさんです。

といっても、ちゃっちゃと線をいっぱい描いてさっさと完成してくれたわけではありません。

これはコヨセさんにとっての最初の絵本。

気合いを入れて試行錯誤を繰り返すうちにあれよあれよと4年が経過…。

今でこそ、おたすけこびとシリーズは英語、ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語、台湾語、タイ語に翻訳されていますが、じつはわたし、何度かあきらめかけました。(゚∀゚)

 

コヨセさんに興味をもった方は、絵本ナビのインタビューを読んでくださいませ。

私とのケーキ対決についても触れてあります。

http://www.ehonnavi.net/specialcontents/welcome/20080331/

おたすけこびとのクリスマス

コヨセ・ジュンジ 絵  徳間書店

 

じつは、おたすけこびとにヘルプ要請ができるのは、おとなだけなんです。

ごめんね、こどもたち…。

ただし、おとなであっても掃除や洗濯、資格試験のカンニング、オフィスのペーパーワーク処理などのお手伝いは受け付けておりません。

こどもを笑顔にしようとしているおとなが窮地に立ったときに、おたすけこびとは出動します!

というわけで、1年に1度、世界中のこどもたちのために獅子奮迅の活躍をするあの方のために、おたすけこびとたちが力を貸すのは当然ですね。

 

この絵本のメイキング、そしておたすけこびとシリーズの発端については、絵本ナビのインタビューをお読みください。

今回はコヨセさんの単独インタビューではなく、私や担当編集者もくわわって、ほとんど漫才  (^o^)。

おたすけこびとシリーズの絵本は、こんな感じににぎやかな、通称「おたすけ会議」を重ねて作っています。

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/interview/20091202/

 

おたすけこびとのまいごさがし

コヨセ・ジュンジ 絵  徳間書店

 

おたすけこびとシリーズの3冊目。

表紙をめくってすぐの見返しから、物語ははじまります。

雨にぬれる緑があざやかな初夏。

公園に面した平屋の家には広縁があり、なつかしい昭和の雰囲気です。

今回の依頼主は、この家にひとりで住むおばあさん。

おたすけこびとに電話をかけて、まいごの特徴として伝えたのは…

「みみは ちゃいろで、はなが ピンクで…」

 

まいごは、おばあさんが飼っていた子猫ちゃんでした。

じぶんで探しにでかけられないおばあさんのために、こびとたちが子猫の捜索にでかけます。

なんと子猫は、側溝に落ちていました。

小さな溝ですが、雨で水嵩が増しているので、子猫にとっては命にかかわる危険な状況です。

でもだいじょうぶ。こびとたちのレスキューチームは、万全の体制でのぞみます。

 

この本の出版は2011年の6月。

いつもどおり1年半ほどかけて準備をしてきて、すべての原画がそろい、校正も済み、印刷にかかろうというタイミングで、東日本大震災がおきました。

私はうろたえました。

水難にあう子猫の本など、出版してはいけないのではないかと。

傷をえぐるようなことになるのではないかと。

 

震災後に、何度も被災地を訪れました。

そこで目にしたのは、数多くの重機が復興のために働く姿。

こどもたちには、それが何年も(今なお)つづく日常の風景となったのです。

コヨセさんの参加も得て、被災地の子どもたちとともに、はたらく車や、おたすけこびとの楽しいワークショップを幾度も重ねていきました。

 

よろしければ、のんきで楽しい、絵本ナビのインタビューもお読みください。

 https://www.ehonnavi.net/specialcontents/interview/20110622/

おたすけこびととハムスター

コヨセ・ジュンジ 絵  徳間書店

 

おたすけこびとシリーズ4冊め。

今度の依頼主は、工作中に指をケガしたおとうさん。

おとうさんに替わって、おたすけこびとが作りあげるのは、ハムスター用の木製回し車です。

 

おたすけこびとの重機のほとんどは建設重機ですから、こういう仕事はお手のもの。

設計図をみて、ハムスターのお世話をしながら、ちゃくちゃくと作業をすすめます。

さいごは、ハムスターの力も借りて。

 

わたしも、コヨセさんも、この本のためにハムスターを飼いました。

わたしのハムスターの名前は、雪花菜(おから)ちゃん。

コヨセさんのハムスターの名前は、キンゴローくん。

(ただし、奥様と息子さんは別の名前で呼んでいたとか…(^_^;)

 

雪花菜ちゃんと回し車。

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この木製回し車は、わたしが制作したものです。

(正確にいえば、わたしの監督のもとに夫が…。でも、色塗りはぜんぶわたしですよ)

 

さらにトリビアな裏話については、絵本ナビのインタビューでお楽しみください。

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=29

おたすけこびととあかいボタン

コヨセ・ジュンジ 絵  徳間書店

 

おたすけこびとの5冊め。テーマカラーは青。

ぬいぐるみの目の赤いボタンがなくなって困っているおかあさんから、緊急コールがかかります。

現場にかけつけたこびとたちは、任務にとりかかるやいなや、家具のすきまにころがっていたボタンを発見。

ところがなんと、まさかの人為ミスで、そのボタンがピョーンと飛びはねて、水槽の中へ…!

 

でもね、かれらは責任のなすりあいなんかしないんですよ。

なあに、へっちゃらさ、と、次なる難関に楽しげに挑みます。

そしてどんなときにも楽しむことを忘れません。

 

今回のみどころは、水のなかの景色、そしてメダカと水草です。

コヨセさんは、子どものころに見たゆらぐ水の風景と、長年たいせつにしている水槽のメダカたちを、愛情をこめて描いてくれました。

くわしくは、コヨセさん自身の文章でお読みください。

http://www.kodomo.gr.jp/kodomonohon_article/7541/

 

おたすけこびとのにちようび

コヨセ・ジュンジ 絵  徳間書店 装丁:森枝雄司

おたすけこびとシリーズの6冊目、なんと10周年だそうです。

お話のネタもつきてきた気分でしたが、担当編集者の「オフの日、みてみたい」の一言で、突如、目の前に楽しげな光景がひろがりました。

はたらき者のこびとたち。おやすみの日には、どんなことをして過ごすのでしょう。

重機の描写に定評のあるコヨセさんは、じつはファッションにもこだわりをお持ちで、パジャマや私服姿のこびとたちを愛情込めて描いてくれました。

うしろ見返しに描いてある落とし物。シリーズの別の本にでてくる小物なんですよ。トリビアですが、わたしたちもたのしく遊んでいます。(^o^)

プリンちゃんシリーズ

プリンちゃん

たかおゆうこ 絵  理論社

 

わたしにむすめが産まれたとき、

小さな女の子ってプリンみたいだと思いました。

やわらかくて甘いにおいがして。

ふだんは素朴で、おてんばなのに、たまにデコってプリンアラモードになるところも。

はじめは自分で絵をかくつもりでしたが、たかおさんが描いたデモ版の絵をみてヤラレタと思い、以来、たのしい共作がつづいています。

たかおさんが絵をかいている間、ひまになった私は、プリンちゃんの歌を作ってしまいました。

(校了間際だったので担当編集者Yさんには嫌がられましたとも。それでもちゃんと載せてくれた優しいYさん)

その後、近所の保育士さんたちにそそのかされて、おどりも作ってしまいました。

理論社HPのプリンちゃんの部屋で、みてください。

https://www.rironsha.com/prin

 

歌って踊ると、たのしいですよ。

わたしも時々、肩凝り解消におどります。

プリンちゃんとおかあさん

たかおゆうこ 絵  理論社

 

おかしの国のプリンちゃんシリーズの2作目です。

プリンちゃんのおかあさんは、アイスクリームのバニラさん。

そう書いたテキストをわたしたら、絵描きのたかおさんに爆笑されました。

あれ? プリンのママがアイスクリームって、へんですか…?

ごく自然にうけとめる方と、大いに違和感をおぼえる方に分かれることに気づきました。

でもまあ、家族って、いろいろだから。

1作目とおなじく、歌と楽譜もついています。

 

プリンちゃんとモンブランばあば

たかおゆうこ 絵  理論社

 

おかしの国のプリンちゃん、3作めです。

プリンちゃんのおばあちゃんは、モンブランばあば。

たぶん、和栗のモンブランですね。母方の祖母となります。

(わたしのひみつのスケッチブックには、プリンちゃんの家系図があります)

さすがは、プリンアラモードひめになるプリンちゃんの祖母、パフェになるアイスクリームのバニラさんの母、と思わせる、おしゃれで素敵なばあばです。

そうそう、理論社HPのプリンちゃんの部屋には、きせかえもあるんですよ。

ダウンロードして、切り抜いて遊んでくださいね。

https://www.rironsha.com/きせかえプリンちゃん

 

プリンちゃんと ブラウニーとうさん

たかおゆうこ 絵  理論社

プリンちゃんシリーズ4冊目。

おとうさんは、ブラウニーです。

素朴で飾り気がないけれど、どっしりと味わい深いのです。

苦みばしった甘さもあって、なかなかいい男。

でも、たかおさんは、コンニャクに見えないようにと苦心したようです…(^o^)

エロール・ル・カインの絵本

アラジンとまほうのランプ

アンドルー・ラング 文  エロール・ル・カイン 絵  ほるぷ出版

 

ル・カインの絵本の翻訳って、ちょっと割の合わない仕事です。

なぜなら、ル・カインの絵本のページをめくる人にとって、文章は刺身のツマでしかないから。

それほどにル・カインの絵は繊細で華麗で魅力的。

色の響きを目で追うだけで心拍数があがります。

微量の毒や倦怠感、それと相反する親しみやすさやユーモアもふくまれていて、とりこになってしまう人たちは多く、そういう人たちにとって、文などどうでもよろしい。

だから翻訳者としては、せいぜい絵の邪魔にならないように務め、裏方に徹するべく穴のあくほど絵をみつめて、どうすればその絵を一層ひきたてられるかに腐心してひかえめに隣に訳文をおかせてもらうのです。

たっぷりと絵を味わった満足感がいちばんの報酬。

…ん。やはり、割の良い仕事かな。

三つのまほうのおくりもの

ジェームズ・リオーダン 再話 エロール・ル・カイン 絵  ほるぷ出版

 

ロシアの昔話を、若い頃にロシアで暮らしたイギリス人作家、リオーダンが再話した本です。

貧乏で子だくさんの弟が、金持ちでいじわるな兄さんに食べ物をもらいにでかけます。

愚直な弟には、ふしぎな力が味方をしてくれて、さいごには幸せになるという定番の物語。

飢えと寒さに苦しんだロシアの民衆が語り伝えたにちがいありません。

 

翻訳にあたって悩んだのが、食べ物でした!

それというのも、この原書は英語。再話者はイギリス人。

本にでてくるロシア料理が、イギリスの子どもたちが楽しめるようにイギリスの食べ物にすり替えてあったからです。

さて、どちらの国からも遠い日本の翻訳者であるわたしは、どうするべきか。

日本の子どもたちが違和感なくお話にとけこめる食べ物にはしたいけど、味噌煮とか団子に変換するわけにはいきません。

類話の日本語版はできるかぎり読みました。みなさん、ご苦労なさっていますね。

絵描きのルカインもイギリス人なので、全体としては、むかしのヨーロッパという感じがだせれば合格点でしょうが、とりあえず、ほんとうはどんなものなのかを知りたくてたまらなくなるのは翻訳者の職業病。

私のしってるロシア料理なんてピロシキくらい…。はて、いかなる料理なのか? 

物語のロシア語版をグーグル翻訳で読み、懸案の料理とおぼしき単語をコピペで画像検索しましたが、よくわかりません。

 

そこで、担当編集者の石原野恵さんとともに、ロシアの素朴な家庭料理をたべさせてくれるというお店を訪れました。

日本人と結婚をしたロシア人女性が一人で経営しているので、日本語も堪能でしょうしね。

いかにも家庭料理らしいロシア料理をあれこれ食べ、お店に私たちしかいなくなった頃、カウンターにいるロシア人女性に話しかけました。

ところが…、ぜんぜん日本語が通じない!

四苦八苦の末にわかったのは、たまたま店番を頼まれた旅行中のご親戚ということでした。

 

でも、せっかく取材にきたのです。ロシア料理各種を平らげちゃったし…。

なんとかモトを取らねば。

身振り手振りの片言会話で、とりあえず(たぶん)いろいろ教えていただきました。

それによると(たぶん)、「ロシア料理といっても、なんたってロシアは広いからね〜、地域と民族によってぜんぜん、ちがうのよ〜〜」という、まことに雄大なお返事でした (^o^)

 

「だってほら、マトリョーシカの顔をみてちょうだい。肌や髪の毛、目の色がちがうマトリョーシカがいろいろ。これぜんぶ、ロシアなのよ〜」と、ずらりと並ぶマトリョーシカと、壁に貼ってあるロシアの地図を指さす彼女。

「こっちの顔は、この地域。あの顔は、ほら、このへんのロシアね」

「ほほお…」

「そもそも、マトリョーシカは、日本から来たのよ♪」

「へええ…」

 

石原さんと私の興味は大きくカーブを描いて(やや捨て鉢に)マトリョーシカへと向かいます。

だってこのお店、希望者にはマトリョーシカの絵付けも教えてくれるんですもの。

ほかには誰もいない店内で彼女と三人、小さなテーブルで片言会話を交わしながら、のんびりと絵付けをはじめた私たち。

ロシアならではの色づかいを教えてもらったりして、楽しかった。

まあね、広大なロシアの香りを肌で呼吸してきました、ってことで。

わたしのマトリョーシカは、秋田こまちっぽくなりました。

 

                         

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シンデレラ または、小さなガラスのくつ

心の美しい娘が継母にいじめられつつも、高貴な身分の男性とむすばれるロマンチックストーリーは世界各地にあり、グリムの「灰かぶり」や日本の「落窪物語」もシンデレラの類話とされています。

 

でもやっぱりシンデレラといえば、ガラスの靴に、かぼちゃの馬車。

この必須アイテムは、17世紀末にフランスのシャルル・ペローが加えた独創だそうです。

サロンの貴婦人たちを相手にお話を語ったペローは女心のツボを心得ていたのでしょう。

 

そのさらに300年後に、ル・カインがのこしてくれたのが、この繊細華麗な絵本。

すみずみまで美しいのはもちろんですが、ネズミが馬に、トカゲが御者に変身するアニメシーンもみどころです。

 

ついでですが、シンデレラって足はやいんだな〜、運動神経よかったんだな〜と嘆息した子ども時代の思い出から、私は「のはらひめ」を作りました。

かしこいモリー

ウォルター・デ・ラ・メア 再話  エロール・ル・カイン 絵  ほるぷ出版

 

まずしい三姉妹の末っ子モリーが、知恵と勇気で人食い大男をだしぬいて、幸せをつかむイギリスの昔話です。

男の子が主人公の類話もあったようですが、いつしか女の子版が定着したとか。

 

昔話は、再話者によって、ずいぶん印象のちがうものになります。

ジェイコブズによる再話は骨太で迫力たっぷり。「おはなしのろうそく」(東京子ども図書館)に収められた松岡享子さんの訳でどうぞ。

いっぽう、この再話をしたデ・ラ・メアは幻想物語の語り手、そして詩人なので、細やかな描写が特徴。文章もかろやかでリズミカルです。

 

そこへさらに、ル・カインの優美でありながらユーモラスな絵がくわわると…。

大男は、憎めないおまぬけキャラに。寝るときには、ピンクのボンボンのついたキャップをかぶってるんですよ。きっと、おかみさんの手編みですね。

それに王子さまたちの、たよりないことといったら…。

最後の闘いにでかけるモリーを見送る王子なんて、ポケットに手をつっこんで、柱に寄りかかって、もじもじしてますもん。ほんとに彼でいいのか、モリー!?

いや、モリーも逡巡したらしく、

 

 モリーは末の王子をみて、にっこりわらい、あわてて目をそらして、まゆをしかめました。

 けれど、やっぱりわらって、「やってみましょう」といいました。

 

…なんて心理描写(?)があって、わらえます。

 モリーは、めっぽう、かっこいい女子で、髪型もショートボブ。

勇気があって、かしこくて、大男への捨てぜりふも決まっています。

 

きっとデ・ラ・メアもル・カインも笑いながら、皮肉をちくちく縫いこんだのでしょう。昔話の魅力は、いろんな解釈が成立するところですよね。

 

このかっこいいモリーが大男から剣をうばって逃げていく場面の未使用原画が「イメージの魔術師 エロール・ル・カイン」(ほるぷ出版)に掲載されています

https://www.amazon.co.jp/イメージの魔術師-エロール・ル・カイン-エロール・ル-カイン/dp/4593505178/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1516106201&sr=8-1&keywords=イメージの魔術師%E3%80%80エロールル・カイン

未訳作品の画像も豊富な贅沢な本で、わたしも文章を寄せ、ル・カインへの複雑な恋心を綴っています。

よろしければ、ごらんください。

 

 

まほうつかいのむすめ

アントニア・バーバー 文  エロール・ル・カイン 絵  ほるぷ出版

 

ふしぎな絵。ふしぎな物語です。

世界のてっぺんにある白く冷たい国に、とても力の強い魔法使いがくらしています。

彼の姿は黒いマントで、城も白壁に黄金の尖塔がそびえる典型的な西洋風。

でもその娘ときたら、ひき目かぎ鼻、足もとまで届く黒髪。頭にちょこんと金の冠をのせているけれど、どう見たって平安朝の姫君でしょう。

いえ、衣装は韓国風かな。むすめの部屋の調度品は中国かも。

いやいや、密林の風景はむしろ東南アジア。ところどころ、コーカサス!?

なにこれ、どうなっているの〜?

 

どうやら、娘と魔法使いは、血の繋がった親子ではないようです。

孤独に耐えられなくなった魔法使いが、幼い女の子をさらい、過去の記憶を封じて育ててきたということ。

物質的にはとても恵まれたくらしでしたが、むすめの心は満たされません。

そのむすめの心を遠くへとばす強い憧れを育てたのが「本」でした。

 

 

献辞が「地球を半周飛んでやってきたわたしのむすめに」となっています。

ベトナムから迎えた養女のために描かれた物語だそうです。

 

そして、絵をかいたル・カインは、イギリス人ですが、シンガポールで生まれ、子ども時代をアジアで過ごしました。

アジア人の血がいくらかまじっていることも強く意識していたようです。

長くはなかったル・カインの人生の、どちらかといえば晩年に描かれた絵でもあり、画風としても今までに試してきた要素が散りばめられています。

彼自身の人生も織りこんだのだろうなと、わたしは勝手に想像をめぐらせています。

 

 

 

 

おばけのジョージーシリーズ

おばけのジョージー おおてがら

ロバート・ブライト 作絵  徳間書店

 

はずかしがりやの、ちいさなおばけ、ジョージー。

ホイッティカーさんの家にひっそりとすんでいます。

でもホイッティカーさんは、じぶんの家におばけがすんでいるなんてしりません。

あるばん、ホイッティカーさんの留守に、どろぼうがやってきて、ジョージーは困ってしまいます…。

 

かわいいおばけジョージーのシリーズは、今から70年以上前にアメリカでうまれ、ロングセラーとなりました。

物語も、おだやかで愛らしいので、こわがりの読者にもにも、おすすめです。

 

原書は横組みで大判の絵本ですが、ひとりで本を読みはじめた小さな読者の方に手にとっていただきたいので、縦組みの児童文学の体裁にしてみました。

(横組み・縦組みについては、こちらをお読みください。→http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=4)

 

 

おばけのジョージー ともだちをたすける

ロバート・ブライト 作絵  徳間書店

 

ジョージーは、ホイッティカーさんの家にすむ、小さな、はずかしがりやのおばけです。

まいばん、古い家の階段をみしっ、ぎいっと鳴らすのが仕事。

その音をきくと、ホイッティカーさんは、もう寝る時間だなとおもうのです。

ところが、ホイッティカーさんは大きな町に旅行へいくことになりました。

ぼくが階段をみしっ、ぎいっと鳴らさないと、ホイッティカーさんは眠れないかもしれない…。

ジョージーは心配になって、ついていくことにしました。

 

ああ、なんてかわいいジョージー。

絵本から物語への橋渡しにぴったりの1冊です。

おばけのジョージーのハロウィーン

ロバート・ブライト 作絵  徳間書店

 

小さなおばけ、ジョージーの3冊目のお話です。

ジョージーは、とてもはずかしがりやので、ハロウィーンの夜にも、こどもたちのあとから、こっそり、ついていくだけ。

ところが今年は、ひろばでハロウィーンのコンテストがひらかれます。

なかよしのネズミたちに、ジョージーがコンテストにでれば一等賞まちがいなしだと、そそのかれるジョージー。

でも、みんなの前にでて注目されることなんて、できるのかしら…。

 

教室や、発表会で人前に立つときの、胸のどきどき。

だれしも、おぼえがありますよね。

 

おばけのジョージー てじなをする

ロバート・ブライト作絵  徳間書店

 

ジョージーは、ホイッティカーさんの家でひっそりとくらす、はずかしがりやの小さなおばけです。

人前にでるなんて、とんでもない!

ところがなんと、村の人たちの前で手品を披露することになります。

 

ホイッティカーさんが、とても困っていたから、たすけてあげたのです。

まったくもう、ホイッティカーさんたら。

ジョージーがたすけてくれなかったら、どうするつもりだったのでしょう。

 

まじめで、やさしくて、でも、どこかぬけているホイッティカーさん。

だれかモデルがいるのかしらとおもったら…。

↓ ホイッティカーさん。

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↓ 著者のロバート・ブライトさん。

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おばけのジョージーと さわがしいゆうれい

ロバート・ブライト 作絵  徳間書店

 

小さなおばけのジョージーは、ホイッティカーさんの家のやねうらべやで、ひっそりとくらしています。

ジョージーの仕事は、まいばん、やさしい音で、階段をみしっ、居間のとびらをぎいっと鳴らすこと。

その音をきくと、ホイッティカーさんとおくさんは、もうねる時間だなと思うのです。

 

ある夏、ホイッティカーさんが、海辺の家にでかけました。

ジョージーたちもいっしょです。

すると、海辺の家には、ひどくさわがしい大きな幽霊がすんでいました!

ホイッティカーさんたちは、ねむれません。

 

ジョージーは、ホイッティカーさんの安眠のために、そして、このさわがしい幽霊の心の安寧のために、ちえをしぼります。

どの家にもジョージーのようなおばけがいてくれたら、みんな毎晩すやすやねむれるのにな。

あなたのおうちは、いかかですか?

 

デイヴィッド・ルーカスの絵本

カクレンボ・ジャクソン

デイヴィッド・ルーカス 作絵  偕成社

 

はじめて原書を手にしたときの胸の高鳴りは、よくおぼえています。

突き抜けたように明るくお洒落な背景。

そのわりに目立たない、いや、手を抜きすぎでしょといいたくなるほど地味な主人公。

ちゃんとわけがありました。

主人公のジャクソンくんは、とてもはずかしがりやで、なるべく目立たないように、いつも背景に溶けこんで生きていたのです。

けれど、彼の繊細さが美点として発揮される時がやってきます。

 

原題は Halibut Jackson。

Halibut とは、イギリス名物フィッシュアンドチップスにも使われる、カレイやヒラメににた大きな魚のこと。

つまり、砂底に張りついて目立たないように暮らしているジャクソンくんという意味です。

さあ、これをどう翻訳するか………。

オヒョウ・ジャクソン? ヒラメ・ジャクソン? カレイ・ジャクソン?

悩んで著者のデイヴィッドにメールを書きました。

直訳は無理なので、どこかに妥協点をみいだして日本語の名前をつけなければならないのだけど、あなたがもっとも大切にしたいのは何でしょう?と。

すると意外なことに、返事は「音」でした。

意味もさることながら、Halibut Jacksonの、角張った音が魅力なのだと……。ほほう。。

そこで「かくれんぼ」を片仮名にして苗字にしてしまうことに決定。カクレンボなら、文句なくカクカクしてますもん。

その後、来日したデイヴィッドは「カクレンボ・ジャクソン」の音をとても気に入って、何度も呟いてくれました。

 

ナツメグとまほうのスプーン

デイヴィッド・ルーカス 作絵  偕成社

 

「カクレンボ・ジャクソン」の愛らしい絵、古典と新しさを融合させたチャーミングな作風で世界を魅了したデイヴィッドの2作目。

表紙には、かわいらしい赤毛の女の子とキラキラした星が舞っています。

ところが表紙をひらくと、そこは暗く寒々しく、鉄錆色に荒れはてた世界。

しかも最初の文章は、いきなり…

 

  あさごはんは いつも ダンボール。

  ひるごはんは いつも ひも。

  ばんごはんは いつも おがくず。

 

なにこれ? なによこれ?

わけがわからないまま胸がきゅうっと締めつけられて、デイヴィッド・ルーカスという人物、ただものではない……と思ったのでした。

それでもやっぱり、かろやかなユーモアと、ノスタルジックなおとぎ話の味つけ、絵と色の美しさは保証つきです。

 

くじらのうた

デイヴィッド・ルーカス 作絵  偕成社

 

3作目は、海と空の深い青に染まった絵本です。

海辺の町に、どどーんと、打ち上げられてしまった鯨と、町の人たちのお話。

町と鯨をすくうには、どうしたらよいのか。

いろいろ知恵をめぐらせたあげく、風や月や太陽にも相談をして、とほうもない大きなスケールで、みんなは待つのです。

 

  かぞえきれないほど たくさんの ほしたちは、もちろん、

  たがいに あれこれ そうだんするじゃろう。

 

満天の星の語りあう音がきこえてきそうな頁が、とてもすきです。

ロボットとあおいことり

デイヴイッド・ルーカス 作絵  偕成社

 

働くだけ働いて、心臓が壊れたロボットは、ゴミの山に捨てられてしまいました。

胸がからっぽなのに、話し相手すらいません。

そこへやってきたのは、南の国へ渡りそびれた青い小鳥……。

有名なおとぎ話をいくつか下敷きにしながら、デイヴィッド・ルーカスは現代をみつめ、そこから新たなおとぎ話を紡ぎだします。

 

大人と子どもがわかちあえる絵本で、誰かが誰かの心にすみはじめる瞬間の心のゆらぎをこれほど繊細に描いた作品を、私はほかにしりません。

ほらふきじゅうたん

デイヴイッド・ルーカス 作絵  偕成社

 

古いお屋敷の暗い室内に、大理石の少女像が置かれています。

台座に刻まれた文字は「フェイス」。「信じる」という意味です。

ある午後、大理石の少女フェイスは深い眠りからめざめて、呟きます。

「わたし、ここでなにをしているのかしら」

 

すると足もとに敷かれた虎の絨毯がこたえます。

「きみは魔法で石にされたんだよ」

フェイスは、いつか魔法がとけて、やわらかなほっぺたの女の子にもどれると信じるようになります。

 

ところが、虎の絨毯はぺらぺらしゃべりつづけます。

「ほんとうのことを信じてもらえないとき、人はうそをつく。

おれが話したのはうそばかり。なにひとつ、ほんとうじゃないのさ」と。

 

なにが本当で、なにが噓なのか。

フェイスは混乱します。読者も。

 

ふしぎな物語です。

曖昧とした余韻のなかに、古い宝石箱のように何かがきらめいているような…。

それこそが真実というものかもしれません。

 

作者デイヴィッド・ルーカスは「哲学を、難解な言葉ではなく絵本のポエジーで語ってみたい」と話していました。

哲学と、詩情。

折にふれて読み返す一冊です。

ピーター・レイノルズの絵本

っぽい

ピーター・レイノルズ 作絵  主婦の友社

 

ラモンはとてもたのしく絵を描いていたのに、おにいちゃんに「ちっとも似てないじゃん」と笑われて傷つき、ぷっつりと絵を描かなくなってしまいます。

そのラモンの心をすうっと広げてくれたのが、妹マリソルの「わたし、すきだよ。○○っぽい絵だもん」という言葉。

そうか、それでもいいのか…と、ラモンは自由になります。

 

表現するって、どんなことなのでしょうね?

そっくりに再現することではないはず。

ラモンの気づきは、絵にとどまらず、生き方まで広がっていきます。

 

そういえば、ラモンくんには、ピーター・レイノルズのべつな絵本のなかで前に会ったような…。

「てん」(谷川俊太郎訳 あすなろ書房)のラストにでてきた小さな男の子の成長した姿だろうと、私は思っています。どうですか?

 

現代は " ish "。

○○らしい、○○みたい、○○くらい…などの意味で、別の単語にくっつける小さなコトバです。

たとえば、30-ish といえば、30歳くらいのという意味。

曖昧にごまかす表現なので、あんまり格が高くないけれど便利なコトバ。

日本語にするなら「っぽい」だなと、私は早い段階で決意しておりました。

読みにくい、意味がまったくわからない、ゴミ捨ての本だと誤解されそう、などなどの至極真っ当な反対を押し切らせていただきました。(^o^)

装丁家、水﨑真奈美さんの描き文字がかっこいい。

 

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